●車道から一段高くなっている歩道。その段差のところに、風で吹き付けられ、半ば砕けた落ち葉がゴミと一体になって吹き溜まっている。団地に沿ってゆっくり下っている道路を下り切った左側にある、陸上競技場のトラックののっぺりした平面にも、風が吹き抜けている。その先を右に入ってゆくと、体育館やテニスコートに隣接している駐車場がある。駐車場の生け垣に使われている、ぷりっとした形で濃くて美しい緑の葉をつけ、しかしその濃い緑は時に茎の方から赤い色に侵され、葉っぱ全体まで鮮やかな赤に染まっていることもある木の名前が、「モッコク」というのだということを最近になって知った。ぷりぷりとした粒のような葉を一年じゅう豊かにつけているその植物は常緑樹で、だから紅葉する訳ではなくて、まるで花が咲いているかのように真っ赤に変色するのだった。(実際の花の色は白色)駐車場をつっ切って抜けてゆき、大きく右へとカーブする道なりに進むと、野球場の背の高いネットが見えてくる。芝生は黄土色に枯れていて、土の部分の焦げ茶色も、やけに濃く黒く見える。誰も人のいない静かなネット裏には、テニスコートから、ボールを打つ音や人のざわめきが聞こえてくる。野球場の外周に沿ってぐるりとまわっている歩道を歩いてゆくと、緑地の方へと入り込む道へと繋がっている。
あたりのものに目をやり、それをよく眺めたり時には触れたりしながら、のんびりと歩いてゆくというのは、多少の高低差はあったとして、基本的になだらかで歩きやすい道を歩いている時だからできることであって、大して険しいとは言えないにしても、くねくねと右に曲がり左に曲がりしていて、登ったり下りたりをくり返し、足元もゴツゴツとしていて不安定な、小さな山の雑木林をそのまま残している緑地のなかの小道を歩いていると、いつの間にか自然に歩調ははやくなり、タッタッタッタッ、と小走りにちかいようなスピードになる。もし、街中でこんな浮かれたような早足で歩いていたりすると、いかにもアヤシイというか妙な感じだろうというくらいに、軽く高揚したような足取りになってくる。冬の緑地は虫も少ないし、雀蜂やマムシなどに出くわす危険もないので、ズンズンと進んでゆく。何種類かの異なる鳥の鳴き声が聞こえ(勿論、道路からの自動車の通る音なんかも聞こえている)、そこここで小さな動物が動くようなガサガサッという音がたつのだけど、目にすることができるのは野良猫くらいのものだ。冬枯れしているとはいえ、いくつもの木々が重なって覆い被さっていて、晴れて真っ青な空は切れ切れにしか見えないし、日の光は斑模様の木漏れ日としてしか射してこない細くウネウネとつづく小道をゆくと、いきなり、山の南側の斜面に出て、そこでは、暖かい光が全面に当っていて、眼下の建物や道路が一望にできるのだった。