●渋谷へ。Bunkamuraで、磯崎憲一郎さんのドゥマゴ文学賞の受賞記念対談と受賞パーティ。対談で辻原登さんから出た「出張」という話に説得力を感じた。
はじめから夢であるような旅行とは違って、仕事としてゆく出張は現実との地続きとして(ミッションを背負って)未知の土地に出かけることで、であるからこそ、現実と夢が不可分であること、現実こそが実は夢のように突拍子もないものであること、現実が夢に強く引っ張られてあることが露呈して、しかも基本的にそれに(会社の責任を背負いつつ)一人で対応することが強いられている。馴染みがないからこそ世界は生々しくあらわれ、何が起こってもそれを受け入れるしかないという感覚が生まれ、しかもその突飛な状況のなかで孤独に果たさなければならないミッションがあり、使命感とそれによる切迫性が生まれ、しかしそれと同時にそのような状況のすべてがまったくの絵空事とか他人がみている夢のようにも思えてくる。出張こそがカフカ的な世界だ、と。磯崎さんの小説のある種のハードボイルドな感触を、出張的なリアリズムだとすることは納得できる気がする。磯崎さんには人生そのものが出張的なものとして捉えられているのではないか、とも思った。
というか、ぼくには出張という経験がまったくないので、そうか、出張というのは磯崎さんの小説みたいな感じなのか、と思ったということか。