●ボルヘスの「バベルの図書館」の冒頭で、図書館=宇宙の構造が、以下のように描かれる。
《(他の者たちは図書館と呼んでいるが)宇宙は、真ん中に大きな換気孔があり、きわめて低い手すりで囲まれた、不定数の、おそらく無限数の六角形の回廊で成り立っている。どの六角形からも、それこそ際限なく、上の階と下の階が眺められる。回廊の配置は変化がない。一辺につき長い本棚が五段で、計二十段。それらが二辺をのぞいたすべてを埋めている。その高さは各階のそれであり、図書館員の通常の背丈をわずかに超えている。棚のない辺のひとつが狭いホールに通じ、このホールは、最初の回廊にそっくりなべつの回廊や、すべての回廊に通じている。ホールの左と右にふたつの小部屋がある。ひとつは立って眠るため、もうひとつは排泄のためのものだ。その近くに螺旋階段があって、上と下のはるかかなたへと通じている。》(鼓直・訳)
これをもとにして、アントニオ・トカという建築家が、下のような図を描いた。
図は、以下のサイトから。
La Sinfonía de Babel [Babel’s Symphony
https://intonationsjournal.ca/index.php/intonations/article/view/20/51
ただし、この図は本文に対して正確とは言えない。小説では、二つの部屋(立って眠るためのものと、排泄のためのもの)は、ホールの左右にあるとされるが、図では書庫の方に組み込まれている。だからそれを正確に反映すれば、下のような図になる、と考えた人がいる。
The Library of Babel, again (Dumb Future)
https://www.jwz.org/blog/2016/10/the-library-of-babel-again/
だがこの図にも二つ問題がある。本文には、《このホールは、最初の回廊にそっくりなべつの回廊や、すべての回廊に通じている》と書かれている。これの意味を、六つの辺すべてが隣接する書庫に通じているととるならば、この図は正確ではないことになる。
それに、このような構造だと、下の図が示すように、閉じた構造になってしまい、横へ移動することが出来ない。
Theory - Why Hexagons 1 - Library of Babel
http://libraryofbabel.info/theory.html
あるいは、
とはいえ、この構造物は上下にも無限に重ねられているので、閉じたループを上下でズラして重ねれば、(隣室に行くのに登ったり降りたりでとんでもない手間がかかるとはいえ)閉じ込められるという問題は解決する。この方が迷宮っぽい感じでもある(ただし、これだと「平面充填」されないが)。
また、それ以外にも、中心から無限に広がっていく構造を考えることもできる。この場合は「平面充填」されるが、無限に長い一本道と変わらなくなってしまう(上下でズレればよいのだが)。
ボルヘスの記述だけでは、この図書館の構造を一意的には決定できない(というか、実は不可能? )ということが、おそらく重要なのだ(ちょっと検索しただけで、これらが出てきた)。