●暖かく晴れた日。歩いているだけで軽く汗ばむほど。外にいる、というだけで、ひたすら気持ちがいい。書き終えた原稿をメールで送ってから、昼前に出掛け、出来るだけ静かなところを選んで、ただゆっくりと歩く。赤や黄色になったものでも、緑のままやや色があせた感じのものでも、木についた沢山の葉々に強い日の光が当たっているのを見ることは、何故こんなにぼくを興奮させるのか、と、いつの思う。葉の色、形、質感、光の受け止め方、重なり具合、しなり、複雑な影の落ち方、枝からの生え方、一枚の葉の大きさとその塊の量感との関係、一本一本の木で異なるそれらの複合された印象は、それぞれに異なる質の、しかしどれも歓びと胸のざわつきとを伴った感覚をぼくに与える。そのバリエーションは無限にあるかのようで、次から次へと眼を奪われ、その印象を整理することは出来ない。そして、その背景の空の青はとても濃くて深い色だ。
近所に、家の前の庭に、建物を覆い隠すくらいに大きな柿の木が四本も生えている家があって、その柿の木に沢山のオレンジ色の実がついていた。それだけでなく、その家の窓辺には、干し柿がずらって並んで干されていた。(ということはあの木は渋柿なのだろうか。)
農家の庭先の無人販売所で売っていたナスを思わず買ってしまい、ナスを手にぶら下げたままで、ずっと歩いた。帰ってから、それを炊飯器で炊いて、むさぼるように食べた。ああナスだ、ナスの味だ、と思いながら。