アルフォンソ・キュアロン・植木等

●『トゥモロー・ワールド』が面白かったので、アルフォンソ・キュアロンの98年の作品『大いなる遺産』をDVDで観てみた。(『天国の口、終わりの楽園。』は新宿のツタヤにはなかった。)いろいろとやりたいことのある、作家としての野心のある、将来化ける可能性のある監督だとは思える作品だけど、作品全体としては、「まあ、いろいろやってますね」という感じ以上のものではないと思った。(この映画にも結構気合いのはいった長回しがあった。ちょっとトリック使ってるっぽいけど。)これは画家の成功の物語でもあって絵が随分出て来るのだが、この手の映画にしては「絵」が割合ちゃんとしていると思っていたら、これはクレメンテが描いているらしい。(系列としては同じ感じの絵だけど『美しき諍い女』に出て来るあのひどい絵とは随分違う。この映画のなかに出て来る絵では、少年が最初に壁紙の裏に描いた少女の肖像が一番いい絵だと思う。)ぼくは画家としてクレメンテをそんなには高く評価しないけど、こういう映画に使うには最適だと思った。あと、ロバート・デ・ニーロが、あまりにロバート・デ・ニーロでありすぎるのが、どうかと思った。
植木等は、ぼくが子供の頃にかかりつけていた小児科のお医者さんと顔つきがどことなく似ていて、訃報を聞いて思ったのは、その医者の先生はまだお元気なのだろうかということだった。ぼくがかかっていたのはせいぜい十代の始め頃までで、子供の頃は大人はたんに「大人」であってその年齢など興味もないし分からなくて、お兄さんとおじさんとお爺さんくらいの区別しかないから、「おじさん」という最も幅の広いところにカテゴライズされていたその頃その先生が、三十代だったのか四十代だったのか五十代だったのかも分からないので、今、いったい幾つくらいなのか推測出来ないのだが。ものごころがつくかつかないかくらいの頃、ぼくは高熱を出しやすい子供だったらしくて、だから本当は、その先生に一番お世話になった時のことはぼくの記憶にはないわけだが。でもそれはおそらく、ぼくの無意識のうちに刻み込まれていて、だからぼくは、あの顔を見ると不思議に「依存」の感情が湧いてくるのだった。