●出る時に降ってなかったとしてもいつ降り出すか分からないので傘はちゃんと持って出なければと思っていたのに忘れてしまったと気づいたのは、雨粒が一つぽつっと落ちてきたのを感じた時だった。駅前のスーパーまであと二百メートルくらいのところで、その一粒は次やその次と次々つづいて、すぐにサーッと降り出したので、残り少しを小走りになる。出がけにちょうど雨があがっていたのがかえってタイミング悪かった。
買い物が終わって外に出ても雨はまだ降っていて、というかますます強くなる感じで、軒下で重たい袋をぶら下げてしぶきをあげる水たまりをぼ―っと眺めていた。行き来する人はみんな、雨降ってるんだから当然でしょうという感じで傘をもっていて、たまたまぼくが部屋を出る前後だけ降っていなかったのだなあと思った。再びスーパーのなかに入って傘を買ってもいいし、そのまま濡れて帰ったとしても(寒くないのだから)かまわないのだが、特に急ぐこともないのでそのまま突っ立っていた。雨は強くなったり弱くなったりを不安定に行き来している。
二十分くらい突っ立っていて、そろそろずしっとした買い物袋の重さを意識し始めたころに、雨音がすーっと弱くなり、水たまりのしぶきも納まってきているように見えた。今だ、と思ってスーパーの軒下を出て早足に歩きはじめた。しかししばらくすると雨は勢いを増し、今まで軒下で見ていたどの瞬間よりも強く降り出した。フェイントをかけられたというか、誘い出されてしまったなあと思いながら、びしょ濡れの状態で部屋に戻った。
●つづき、八月の後半に撮った写真。