●電車を降りて地下にある改札を抜けると、改札前のスペースに、まるで配水管が詰まって水が逆流したみたいな流れ方で人がごった返していた。その乱れた流れをかいくぐるように抜け、地上への階段のところまでゆくと、出口から見える四角く切り取られた空から、大粒の雨が凄い勢いで落ちていて、何とも言えない濃い湿気が籠っていた。2、3歩階段を昇りかけたところで、ぼくもまた、逆流する水のような流れで改札前まで戻り、傘を買おうか、それとも、どこか喫茶店のようなところで時間を潰そうか、と考えつつ、しばらくぼんやりと人ごみのなかで突っ立っていた。行動(目的)への流れが滞り、時間が停滞してどろっと空間的に広がる。行き交う大勢の人たちの気配、ざわざわと響く話し声や靴音、湿った空気などが急に生々しく感じられ、唐突に、ああ、夏の土曜の夕方、なんだなあ、と思ったのだった。