●『星よりひそかに』(柴崎友香)。いくつかの短編は初出誌の「パピルス」で読んでいるけど、まとまったものを読んで、「あー、こういう構想だったのか」と驚いた。一見、さらっと、すんなり読めるようでいて、なにげなくすごいことになっている。読んでいる時は、ゴムボールがどっちに跳ねるかわからないような運動性を感じるのだけど、読み終わってみると、とても緊密に構成されていることが分かる。
試しに、登場人物たちの関係図を、ペアという関係を「=」で表し、「見る→見られる」という関係を方向をもった矢印で表して、描き出してみたら、かなりすごいことになった。これは、様々な「わたし」をめぐる「配置」および「配置転換」の小説だと言っていいのではないか。
登場人物だけでなく、各短編間の関係も、一、二話、三、四話、六、七話がペアになっていて、「見る→見られる」の視線の方向としては、一話→六、七話、二話→三、四話となっていて、五話だけちょっと違う位置にあって、視線の方向としては逆向きで、一話←五話になっていると言えると思う。
(ミニ子が乃夏を見ている、えり子が沼田を見ている、ハルトがノブナガを見ている、ということ)
(一話と二話、六話と七話が、それぞれ切り返し的な対称性をもっていて、さらに、一、二話のペアと六、七話のペアという二つペアも、対称性をもっている。)
五話が、本にするために書き下ろしとして加えられているのも大きいと思った。五話を除いた六つの話だけだと、形式的にきれいに整い過ぎてしまう感じだけど、五話があることで、ボールの中心からずれたところに重心があるみたいな感じになっている。そして万里子という人物が謎のまま開かれている。