2019-05-03

●『さらざんまい』第四話。ここまでで、主要な登場人物三名(一稀、燕太、悠)すべての「秘密」の漏洩が済んだことになる。つまり、この三名それぞれの抱えている問題(関係-物語)が一通りは提示されたことになるのだろう。この作品が全十二話だとすれば三分の一が過ぎたことになり、ここまでを序盤のひとくくりとしてよいのではないか。

(この回では先送りになった、吾妻サラの誘拐-入れ替わり計画が、一稀と春河の関係の新たな局面を露呈させるものとして、中盤以降の展開の端緒となるのではないかと予想される。)

(とはいえ、吾妻サラなどという人物は実在するのだろうか? 握手会は本当に行われるのだろうか? という疑念はある。)

●この回で特筆すべきなのは、悠によって拳銃の発砲が行われたということだろう。これまで拳銃は、包帯を巻かれた上に箱のなかに納められた、(なにかしらの「秘密」を内包するが)既に機能しなくなったオブジェクトのようにしてあった。また、警官(玲央、真武)が所持している拳銃は、発砲する(弾を発射する)ものではなく、ゾンビとなる被害者の尻子玉を抜くための(吸引するものとしての)、穴と管であった。

あるいは、悠と誓との兄弟のもつ武器は、これまでは刀のような、定規のようなものであり、それは手の延長として、身体との連続性をもつものであった。それは刀のようでありながら定規であり、殺傷能力をもつものにはみえなかった。

しかしこの回はじめて、拳銃が、「弾を撃つ」という機能をもつものとしてあらわれた。弾を撃つという機能をもつ拳銃は、(尻子玉を抜くということとは別のやり方で)殺傷能力をもつ。

一稀のもつ箱の中には女装のための用具があり、それは一稀が、偽装と役割転換という役割をもつ人物であることを示すだろう。そして、燕太の箱の中にはミサンガがあり、それは、燕太が繋がりをつくり円環をなすという媒介的役割をもつ人物であることを示しているだろう。

悠の箱の中にあったのが包帯を巻かれた拳銃であり、(過去の出来事とはいえ)この拳銃には実際に殺傷能力があることが示された。

●『さらざんまい』の詳細な聖地巡礼をしている人がいた。「さらざんまい 舞台探訪」(聖地巡礼特集」より)

http://tianlang.s601.xrea.com/Sarazanmai.htm

これをみるかぎり、『さらざんまい』では、現実の浅草、合羽橋周辺が、風景だけではなく地理的な関係も含めて、細かいところまでかなり忠実に再現されているようだ。

一稀、燕太、悠の抱えている問題の性質、実在の地理的関係の忠実な再現(おそらくその一部の意図的改変)、主要な登場人物以外がピクトグラムで表現されている(さらに、一部の人物は顔に文字の書かれた紙が貼られている「顔のない」存在である)ことなどが、「ピングドラム」と共通している。

それはつまり、現実が忠実に再現されているからこそ、かえって、そこに示されている「世界」が、我々が通常現実と呼ぶものとは別の位相にある世界であるかのような気配が濃厚になってくる、ということであろう。そこに示される「世界」は、我々が住んでいる「この現実」からこぼれ落ちて、現実とも異界ともつかない(存在しているとも、存在していないともいえない)、どこでもないところに迷い込んでしまっているもので、いわば世界そのものが幽霊化してしまっているかのようにみえてくる。

(ピングドラム」の物語世界そのものは、「運命の乗り換え」によって消えてしまった幻の世界とも言える。)