雪でも降ってきそうな分厚い雲が空にのしかかる。早足で歩いているので身体のなかはあたたかいが、直接空気に触れている顔の肌はこわばる程冷たい。(鼻の辺りが真っ赤になっているのだろう。)しかしそれでもまだ、耳の奥がキンキンと痛くなる程に空気は冷え込んではいない。F森公園の東側の入り口から神社のある高台まで緩く登ってゆく道の両側にはプラタナスの並木がある。多くの葉は落ち、墨を散らしたくらいにまだ点々と木についている葉も、乾燥して子供が軽く握った手のようにクシャッと縮んでいる。地面に厚く溜まった葉を踏みしめ、クッションのようにそれが沈み、乾燥した葉がバリバリと砕ける感触をたしかめながら坂道を登ってゆく。プラタナスの幹の表面の樹皮はカサブタのようにポロポロと斑点状に剥げ落ち、下からツルツルして白いあたらしい樹皮が覗いている。幹に沿って視界を振り上げた時に見える、厚く曇ったグレーの空を背景にしてチラチラと散らばっている枝についた葉の黒い散らばりと、幹の剥げ落ちた表面の樹皮の下からのぞいている白くあたらしい樹皮のつくる斑点模様のチラチラした散り方とが、明暗が反転した同様の「チラチラ」として頭のなかで重なり、明滅し、チカチカと反転を繰り返し、空間の秩序を揺るがす。幹に触れてみると、樹皮は簡単にポロッと剥がれた。プラタナスの並木を抜けると坂を登り切ったことになり、そこにはイチョウの木がある。イチョウの葉はやわらかく、落ちた後でも水分を含んでいるので、踏みしめてみてもただミシッと足が沈むだけで、バリバリと砕ける感触がない。