A-things 井上実・展

●吉祥寺のA-things(http://athings.exblog.jp/)へ、井上実・展を観に行った。(地図は、ここhttp://map.yahoo.co.jp/pl?nl=35.42.11.196&el=139.34.44.965&la=1&fi=1&skey=%c9%f0%c2%a2%cc%ee%bb%d4%b5%c8%be%cd%bb%fb%cb%dc%c4%ae%a3%b2-%a3%b2%a3%b8-%a3%b3&sc=3。)この展覧会は新作ではなく、過去の未発表作品を展示しているのだが、なぜこの作品を発表しなかったのだろうかと疑問に思うほど、良かった。特に、2000年に製作された3点の作品は、最近の野菜屑をモチーフにしたシリーズの新作なのかと勘違いして、随分と急激に洗練されたなあ、と思ってしまったくらいに、良かったのだった。(最近の作品にも、この頃の作品にあったようなヴィヴィッドな感じがもう少しあってもいいのじゃないかとも思った。)井上実の作品については、過去に何度か書いたことがあり(ここhttp://www008.upp.so-net.ne.jp/wildlife/yo.24.html#Anchor5104285、や、ここhttp://www008.upp.so-net.ne.jp/wildlife/yo.37.html#Anchor2969322、あるいはここhttp://www008.upp.so-net.ne.jp/wildlife/nise.a.1.9.html、の04/12/08など)、それと同じような内容になってしまうかも知れないが、ちょっと書いてみる。
●例えば、スポーツを観戦する楽しみというのも確かにあるが、それだけでなく、実際に自分でやってみる楽しさというのがある。勿論、誰でもがスポーツ選手になれるわけではないのは当然の事だが、それでも、一生懸命にやってさえいれば(一生懸命に、というのは重要なポイントだと思う)、それぞれのレベルに応じた、実際にやってみることによってしか得られない感覚の楽しさや発見を得られるはずで、そこには、どんなに「見巧者」であったとしても、観戦するだけでは決して得ることの出来ないものが含まれているはずだろう。そして、絵を描くということは、野球やサッカーを実際にやってみることよりもずっと容易に、実際にやってみることが出来ることのはずなのだ。もし、絵を見ることが好きだったり、それを多少でも面白いと感じる人ならば、是非、自分でも絵を描いてみることをお勧めしたい。絵なんて誰にでも描けるはずなのだ。道端に生えている気になった植物や、自分が飼っている犬や猫、あるいは自分が好きな人の姿などを、少し立ち止まって普段よりちょっとだけ詳しく見て、それを紙の切れ端にさらさらと描いてみるだけで充分だ。そのようにして実際に絵を描いてみることの方が、美術史や絵画に関する批評的な言説に詳しくなることなんかよりもずっと、絵画に関して多くのことを教えてくれるはずだ。井上実の作品を観ることによって喚起されるのは、そのような意味での、人に、絵を描くことを促す、何かしらの原初的な、活き活きとした力のようなものなのだ。だからといって、井上実の絵画が素朴なものだというわけではない。むしろ、ちょっと洗練され過ぎているのじゃないかと思える程に洗練されている。しかし、にも関わらず、そこには絵を描くことの原初的な欲望のようなものが強く現れているということが貴重なのだと思う。おそらく、井上実の絵を観た人の多くは、自分でも、ちょっと絵を描いてみようか、とか、自分にも良い絵を描くことが可能なのではないか、とか思うのではないだろうか。そしてそのことは、「何何について語るなら、最低限何々について知っておくべきだ」などといった抑圧的な言説(抑圧によって人を「勉強」へと向かわせ、それによって共通の地盤=共同性を形成しようとするような言説)などよりも、ずっと風通しの良い、絵画にとって、あるいは人生にとって、貴重なものであると確信する。
●作家は、展覧会というとどうしても「新作」を展示したいと思ってしまうのだが、この展覧会を観て、何人かの作家が集まって、過去の作品のなかから、未発表作品展とか、自薦小品展、みたいなことをやるのも面白いのじゃないかと思ったのだけど、どうでしょうか。
A-thingsでの井上実・展は、9月18日まで、月、火曜休み。