●『快適生活研究』(金井美恵子)の最初の方を読んだ。短編連作になっているらしい。ふたつめの(短編というのか章というのか)「そんとく問答」を読んでいて、なんとも言えない感情に襲われる。初老の一人暮らしの女性が書く、脱線ばかりの手紙から浮かび上がって来る、孤独でとりとめがなく、うっすら狂気の気配さえ漂う、しかし何とも幸福な、こまごまとした生活の断片。この手紙の書き手であるアヤコさんというのが、お嬢さんが独身のまま還暦を過ぎたというような、浮世離れした人だという設定が、いつもの金井美恵子の小説にある、キリキリするような神経質な感じやトゲトゲした感じ(それはそれで面白いのだけど)にふわっとベールをかけていて、その分、ゆるくてとりとめのない時間のひろがりのようなものが前に出ていて、この文章を読んでいるこの時間が自分にとってたとえようもなく貴重なものだと、人が生きている時間というのはこういうものなのだなあと、思えたのだった。ただ、この章の終盤にある(ネタバレになるけど)、手紙の書き手であるアヤコさんが唐突に弁護士のKさんと結婚することになったというぐたりを読んで、ここに書かれている、この、どこにも帰属しえないような寄る辺ない言葉の広がりが、いきなり、「短編連作」の文脈のなかに「位置づけ」られてしまったように思えて(つまりそのような「作者の意図や手つき」がみえてしまって)急速に気持ちが冷めるというか、萎えてしまったのだった。まあ、このような印象は、この作品を最後まで通して読めば変わるかもしれないのだけど。
●今日の天気(06/10/11)http://www008.upp.so-net.ne.jp/wildlife/tenki1011.html