●本を読んでいたり、映画を観ていたりするときに、ふいに強烈な眠気に襲われることがあって、その時には、ほんの三十分くらいだけど、すごく深く眠ることができる。(音楽を、その音の細部まで聞き漏らさないように入り込んで聴いている時、その覚醒と地続きのまま、いつの間にか寝てしまっていることがぼくにはあるのだけど、本や映画の場合、いつの間にか寝てしまっていたというのはなくて、頭の芯がしびれるようになって、これ以上集中はつづかないから、ここで寝てしまうしかない、という区切りが意識される。)
そのような眠りの覚め際に、夢のなかで、がっしりとした存在感があり、手触りがあった物が、「眠りが覚めてゆきつつあるのだなあ」という意識とともに、すうっと消えてゆく感じを、はじめて「意識的」に捉えることが出来た。それまで充実した「物」としてあったものが、手のなかでその手応えが霧のように消えてなくなってゆくのだった。眠りのなかで、「あ、覚めてゆく」という感じがあったので、(半ば)意識的にそれに抵抗して、再び眠りのなかに戻ってゆき、それとともに夢の彩りも戻ってきて、しかしそれも一時のことでまた覚醒に向い、もう一度眠りの方へ傾こうとして、また....、というような、眠りと目覚めとの境界線での行き来を、半ば意識的に何度か繰り返した。こんなことを経験したのははじめてで、目覚めた後もとても強烈な感覚(手のなかで物が消えてゆく)として残ったのだけど、これを書いている今では、その感じをもう既にかなり忘れてしまっている。
●作家論のゲラの直しを郵送で返した。