成瀬の『流れる』をDVDで

●台風が去って、夏が戻ったような陽気。今年の夏は、長い梅雨のあといきなりやってきて、猛烈に暑かったけど、惜しむ暇もなくさっさと行ってしまった感じだったが、また戻って来た。
●成瀬の『流れる』をDVDで。はじめて観たわけではないので知っているはずなのに、最後に栗島すみ子が山田五十鈴を裏切るところを観ると、まるで実際に自分が裏切られたかのようなショックを感じてしまう。別に、そんなに山田五十鈴に感情移入しているわけではないから、映画を観ているうちに、ぼく自身がこの料理屋のおかみさんをいつのまにか「信頼出来る人」だと信じ込まされているのだ。物語の結末を既に知っていても、ひとつひとつのシーンの説得力の強さに騙されてしまう。
それにしてもこの映画のオープニングのカット数の多さは尋常ではない。めまぐるしくカット(カメラの位置)が変わって、その度、フレームを忙しく人が出たり入ったりしてつくられる複雑な空間と運動感は、映画でしかあり得ない。(日本家屋の多孔的構造は、映画のためにあるのではないかとさえ思ってしまう。この映画はまさに「空間(家)」の映画なのだ。)カットは、一見、なめらかに繋がっているようにみえるのだけど、けっこう変な繋ぎ方もされている。(カットが中途半端にアクションの途中からはじまる、宙に浮いたような感じとか。)こんなに過激でアバンギャルドなことをやっているのに、「お話」としてはきわめて通俗的でわかりやすいものだったりする。これが普通に同居出来ていた時代があったのだ。今ではなかなか信じられないことだけど。