●昨日の上半身につづいて、今日、下半身が発見されたという、カーネル・サンダース人形の回帰は、ぼくにとって、とても気持ちの悪い出来事だ。85年という年は、阪神の優勝だけでなく、(ぼくと「同学年」である)清原・桑田のドラフトのあった年であり、もっと地味な出来事としては、江川がプロ入りして100勝を達成した年でもある。その二年前の83年には、巨人と西武との伝説的な日本シリーズの決戦があり、そして、東京ディズニーランドが開園している。何というのか、ここらあたりから、あのバブリーな時代が本格的にはじまるような感じなのだった(85年はプラザ合意の年でもあるし)。そして、85年の阪神優勝という出来事は、ここからバブルの狂騒がはじまるという象徴的な(まさに実体のないバブリーな、しかし押しとどめられない流れとしての)出来事のように感じられる。阪神がリーグ優勝したその瞬間をぼくはテレビで観ていたのだが、中西が投げて、確か打者を三振にとって、マウンド上でぴょんぴょん跳ねて、キャッチャーの木戸がかけよってくるのを観ながら、ああ、本当に阪神が優勝しちゃうんだ、と、不思議な力が作用している感じがしたのを憶えている(ぼくはこの頃、最も熱心にプロ野球を観ていたのだが、当時の阪神は優勝を狙えるようなチームではなかった、シーズン前に阪神優勝を予想した人はまずいなかった、阪神の日本一は、そのくらいの珍事だった)。その年に「ある力(流れ)」によって「失われたもの(消されたもの)」が、今になって「帰還」してくるというのは(しかも上半身と下半身とが切断された形で)、一体なんの「しるし」だというのだろうか。カーネル・サンダースの呪いは、解かれるどころか、これからはじまるのではないかという、嫌な感じがある。そしてそれは決して、阪神タイガースとか関西圏とかだけの問題ではないのではないか。85年のオフにドラフトでプロ入りした清原が、去年のシーズンを最後に引退し、その後になってからカーネルおじさんが再び現れたということは、今までは(だんじりファイター)清原のプレーによって、カーネルおじさんの呪いは辛うじて払われ、封印されていた、ということなのではないだろうか。勿論、これらはすべて下らない冗談だが、なんというか、とても気持ちが悪い。
●昨日の夜中くらいから頭痛は半端ではなく酷くなって、とにかく頭痛いから寝てしまおうと思っても、ズキズキとくる痛みの衝撃波で眠ることも出来ない。頭痛薬くらい常備しておけばよいのだが、そんな余計なものはうちには一切ないのだった。とにかく、明けて、薬局が開く時間まで耐えつづけるしかないのだ。リンチの『ロスト・ハイウェイ』では、刑務所の独房にいる男が、酷い頭痛の末、別に人間に変わってしまうのだが、その感じが少し分かるくらい、顔が変形してるんじゃないかと思うくらいの頭痛だった。頭が痛過ぎて背筋に寒気がするくらい。何かで気をまぎらわせようと思っても、本を読んだりテレビを観たりなど出来ないし、頭が痛い時に一番したくないのが音楽を聞くことで、しかたないので、テレビの音量を絞って、画面は観ないで、その音だけを、聞くでも聞かないでもない感じで聞いていた。
時間が経つのが遅く、少しでも痛くない姿勢はどんなだろうとか、肩をほぐしたりとか、目の回りをマッサージしたりとかして、横になってみたり、体育座りしてみたりとかして、時間をやり過ごし、ようやく九時半過ぎくらいになる。一番近い薬局まで、普通に歩けば十二、三分なのだが、なにしろトイレに立つのでも頭に衝撃がはしるくらいだから、怖々と、慎重に、一歩一歩確認するように歩いて駅前まで行った。ほぼ毎日通っている道を、まるで「はじめてのおつかい」みたいな不安とともに歩いた。からだは辛いし頭は痛いけど、それ自体は新鮮で面白くないこともない。スクーターとすれ違っただけでよろけそうになるし、その排気ガスの残り香が予想以上にこたえる。ちょっとした段差で転びそうになるし、信号が替わりそうで思わず小走りになって、頭に激痛がはしる。視点が定まらず、ふわふわしている。すべての音が遠くから聞こえているみたいだ。開店してすぐで忙しそうな店員に、頭痛薬ありますか、と聞いて、何度も、はっ?、と苛立たしそうに聞き返される。多分、全然声が出てないのだろう。
昨日は一日まったく外に出なかったので、買い物も出来ず、ほとんどなにも食べてないので、帰りに食料を多めに買った。ぼくは、体調が悪い時ほど食欲が出る。多分、『ルパン三世カリオストロの城』のルパンが刷り込まれているのだと思う。昨晩から甘いものが食べたかった。スーパーで買ってきた、板チョコとみたらし団子と肉じゃがと揚げ出し豆腐とカマンベールチーズを一気に食べて、バファリンを飲み、コーヒーを飲むのはさすがにやめておいて、だとすると他には何もないのでただのお湯を飲んで、しばらくぼーっとしてから、また寝た。夕方頃に起きて、頭痛は薬のおかげで少し治まっていたので、三十分くらい外を歩いてみた。たんに風邪なのかも、と、いまさら思う。