●午前七時半くらいに、駅へと向かう。アパートから駅まで十分ちょっとの道のりだが、駅に近づくにつれて、いろいろな方向から、いろいろな音、いろいろなリズムの足音が集まってくる。重なる。足音は一日中聞こえているはずだが、朝の通勤時間帯には、特にそれがよく聞こえる。耳につく。
●夢。学校にいる。しかしぼくは、学生でも教師でもなく、用務員とか、そういう位置であるようだ。あるいは、何者でもなく、ただそこにいる人。猛暑で、学生達は皆へばっている。午後の、水泳の授業の後のような雰囲気。ぼくはとつぜん、ホースで水をまきはじめる。教室にも、廊下にも、グランドにも。水浸しの学校では人影が消え、ただ、犬が何匹か、水たまりで戯れている。太陽は強く照っている。水たまりに落ちている、空き缶や筆箱やはさみを見て、まるでそれらの物たちが水のなかで涼み、持ち主から切り離されて安らっているように感じる。「万物は互いに観照する」という言葉が浮かぶ。
●夢。一階にある台所で料理を皿に取り、それをもって階段をのぼる。それはすべて魚料理だった。しかし、階段の途中でふと気づくと、階段には料理がだらしなくばらまかれ、手元の皿には何もなくなっている。ぼくにはそれをこぼしたという自覚がない。またあの男だ、と、ぼくはそれをあの男がやったことだと思い込み、人のせいにする。人を呼び、またあの男が粗相をしたと言って、片付けさせる。最初に皿に取った時は自分で食べるためだと思っていたのだが、実はその料理はあの男のもとにどけるためのものだったと思い直す。二階ではあの男が熱心にビデオを見ていた。テレビ画面に映っているのは、あの男自身がビデオを見ている映像だ。どこかにカメラがセットされているのだろう。しかしこの男にはもう、自分が何を見ているのかも分からないのだ、とぼくは思う。映像が、ぼく自身がビデオを見ているというものにかわる。しかしあの男は、それすらも理解していないようだった。