●渋谷のシネマヴェーラで、「ユリイカ」の山本充さんと『母なる証明』について話した(映画館大賞というイベントhttp://www.eigakanshugi.com/eigakantaisho/)。上映前のトークだったので、映画をまだ観ていない人に余計な先入観を持たせてしまってはいけないし、しかし、人前で何かを喋る以上、何かしら「聞くに値すること」を言わなくてはいけないという気持ちもあり、実際に「これから観る人」を前にしてみると、これは予想以上に厳しかった。
母なる証明』の直接的なネタバレにならないように、ポン・ジュノの他の作品にも共通する要素を挙げ、それが『母なる証明』でどう展開されているのかをこれから見てみて下さい的なことを言おうかとも思っていたのだが、でもそれすらも「観る前」の人(まさに、今、これから観ようと思っている人)には余計な情報なんじゃないかと(実際にそういう人たちが目の前にいると)思えてきて、それを十分には言えなかった。あと、母と息子の関係が非常に重たく展開するこの映画で、しかし笑える場面(というか、どう考えても笑わせようとしてやっているとしか思えないこと)がかなりあることを指摘して、一見、重苦しさに支配されているようにもみえるこの映画が、いかに多様な力、多様な方向の運動の交錯によって成り立っているかということの一例としようかとも考えていたのに、壇上でその具体的な場面を思い出せなかったり(こんなところでウォン・ビンを反復してどうする!)して、すごい中途半端な指摘になってしまったりした。
言いたいことを充分に言えなかった感と、余計なことを言い過ぎてしまった感の両方が残るという結果になってしまった。外に出ると小雨が降っていて、なんとなく「とぼとぼ」という感じでセンター街の方へと歩いて行った。