青山ブックセンター本店に、佐々木中×保坂和志トークを聞きに行く。佐々木さんの言うことはいちいちもっともなことだし、内容的には素晴らしいと思うのだが(そしてたいへんに勇気づけられたのだが)、しかし、佐々木さんは聴衆を前にすると普通のしゃべり方が出来なくなってしまうみたいだった。
予備校のカリスマ講師が、受験の時期を迎える受験生たちの気持ちを盛り上げるためにハッパをかける(暗示をかける)かのような、あるいは、若い熱血教師が生徒に向かって熱く青春を語るみたいな語り口で、保坂さんとの対談というより、常に聴衆に向けた運動家のエモーショナルな演説のように語る(保坂さんの話を受けながらも、それを保坂さんに返すのではなく、聴衆への、教え諭しかつ挑発するような語りかけへと方向をかえる)。途中では「お前ら」と聴衆を挑発し出したかと思うと、終盤では自分に言い聞かせるかのような内省的な(しかし芝居がかった)調子もあった。
佐々木さんはいつもこんなしゃべり方なのかと、半ば唖然とし、半ば苦笑しつつ、ぽかーんと眺めている感じだった。こんな風に喋る人は、少なくともぼくのまわりにはまったくいないので。保坂さんのいつもの、フリー過ぎる展開をみせる話の調子と、佐々木さんの、熱くも空転するような芝居がかった演説の調子とが、まったく混じり合わないままで共存しているような、いままでこんなの見たことないというような不思議な空気が流れる場だった。決して、居心地がいいという感じではないのだが(佐々木さんの挑発に対して、聴衆がワーッとわいたり、ブーイングがおきたりという呼応があればまた違ったのだろうけど、むしろ、淀んだような「気まずい感」が漂っていたように思うのだが)、それが面白かった。佐々木さんの(一人で)白熱しつつある語りに対し、保坂さんが「あのー」とか言って介入して脱力させるところとかも笑えた。いままで、佐々木中インタビューというのをいくつか読んだことがあるのだが、それもまた、あのような口調で語られていたのだとすると、もう一度それらを「別物」として読み直す必要があるのかも、とさえ思った。
開演前に、エスカレーターを下った青山ブックセンターの入り口のところで磯崎憲一郎さんとばったりと会って、保坂さんと佐々木さんはそこのカフェにいるみたいだと言うのでついて行って、その時のカフェでの佐々木さんの感じと、舞台に上がって「お前ら」みたいな口調で語りかつディスるパフォーマーとしての佐々木さんとがあまりに違っていたのも(その落差が見られたのも)、笑えて面白かった。パフォーマーモードになると、もう普通には喋れない、みたいな。講義とかもあんな感じでやっているのだろうか。