●二つの抽象性というのが考えられるのではないか。上へ向かう超越性として、メタ・イメージとして象徴となろうとする抽象と、下へともぐりこむ潜在性としての、プレ・イメージとしての抽象。
例えば「2X=Y」という単純な式について考えてみる。この式は、これ自身としては意味(イメージ)をもたないある関係の表現であり、抽象であろう。この式を、世界に遍在する、感覚可能な様々な数のペア、「2、4」「3、6」「4、8」……、というイメージのなかから導きだされたある普遍性をもつ関係と考える場合が、一つ目の上への超越としての抽象。対してXの位置に、「2」「3」「4」を置いてゆくことによって、「4」「6」「8」という答え(イメージ)をそれぞれ生産してゆく、ある潜在的な力と考えるのが、二つ目のプレ・イメージとしての抽象。多くのイメージを制御し束ねる法としての抽象と、多くのイメージを生産してゆく力としての抽象。前者は、この世界にすでにあるイメージのなかから抽象され、法則として可視化される。後者は、未だこの世界にないものを生む技法でもあり、秘密の匂いとしてその存在が予感される。あるいは、前者は「2」と「4」との繋がりを説明し、あるいは命令するが、後者は、「2」「4」との間に繋がりを見つけ出す、あるいは作り出す。