VRの研究がかなりヤバいところまできている。電気刺激で直接的に感覚を「つくる」ことができる。「GCC'17レポート:頭部への電気刺激で重力,そして視覚や味覚まで「本当に感じる」VRの世界へ」。
http://jp.gamesindustry.biz/article/1702/17022401/
《前庭部というのは,耳の奥の三半規管の隣にある重力などを感じる器官のことだ。微弱な電流を内耳の奥の前庭に流すことで,加速度感覚や角速度を知覚させることができるという。基本原理は,前庭器官へ電気刺激を与えて左へ傾くイメージが与えられると,脳が左に傾いていると感じて体がそれに対応するように右に傾くというもの。流す電流は,低周波治療器の数十分の一とのこと。》
《一般的に行われている感覚再現の方法は,物理現象を再現する方法が主だったものになっていると青山氏は言う。例えば視覚であったら,実際に光っていう物理現象を再現するディスプレイ,触覚だったら,実際に力を出すNovint Falcon,前庭感覚だったら人を乗せて振り回して加速度を発生させてやるモーションチェアといった具合だ。
そんな中で青山氏は,体に電極を貼って感覚器や神経系に対して電気刺激を与え,それによって生起させられるいろいろな感覚にこだわって研究しているという。こだわる理由は「前庭刺激装置は,安くて,軽くて,小さい」からだそうだ。》
《「筋肉の上に電極を貼り,そこへ電気刺激をすると筋肉の収縮が起こるんですね。物を触ろうとする感覚を再現するときには,指を曲げて触ろうとしたときに,伸ばす筋肉を収縮させ,指をガチっと止めます。そうすると人間は力が返ってきた=そこになにかあると錯覚するのです」と感覚再現のメカニズムを解説した。
「さらに指の腹にも電極を貼り,電気刺激をします。すると,指の腹に触ったものの圧力の感覚を生み出すことができるのです。これらを一緒に使いつつ,かつ数十ミリ秒というごく短い時間ずらして使ってやることによって,コツコツとした堅いものから,ふわっとした柔らかいものまで,いろいろな硬さを感じさせることに成功しています」と青山氏は続け,触ったときの腕に感じる反力だけでなく,質感までリアルに再現できていると語った。いずれは,キャラクターの髪の毛や手に触れたとか,そこまでの質感を表現できるようになるのでは,と思い引き続き研究を進めているという。》
《味覚の抑制効果とは,例えば口の中に塩水とマイナス極を入れて,プラス極を体のどこか(首の後ろとか)につけて電気をかけてやると,塩味がすっと消えて水のように感じるようになるとのこと。研究は,この味覚の抑制効果がどうして起こるかを調べることから始まったという。
結果として「口の中で塩水はNa+とCl-に電離しています。ここに電気刺激をかけてやると口腔内に電場ができて,Na+はマイナス極側(ストロー側)へ,Cl-はプラス極側(喉の奥側)へ移動していくのです。実は塩水の塩味は,Na+側でしかしていないため舌からNa+が離れることで,味覚の抑制が起こっていました」と,そのメカニズムが分かったという。》
《逆に電気刺激で味を濃く感じさせることも可能だと青山氏は続けた。いったん電気刺激で味を抑制したあとに,その電気刺激を切ると元の味覚が戻るが,そのときに味覚を感じる成分(塩水であればNa+)が一斉に舌へ当たり,一秒くらいの間だけ強く味を感じることがあるという。》
《顔いっぱいに電極を貼り,いろいろなところから電流を流してみて分かったのが「人間は,刺激の近くに光を感じるらしい」ということ。場所が分かれば,その位置を変化させてやれば光の位置を制御できる。制御できるということは,光源を高速で移動させたり,二つ三つ同時に光らせたりして簡単な図形を描けるかもしれないと思い,研究を推し進めているという。》
《(…) 網膜電気刺激による視覚再現の特徴として広視野があるという話へ。実際にどれくらいの範囲が反応できるかと調べたところ,通常の視界よりも後ろに光が見えていることが分かった。青山氏は「人間が本体持つ見る力を拡張したところに情報を提示できるということは,もしかしたら将来,後ろに目がある生活ができるようなインタフェースになるのかもしれない」と思いつつ研究を進めていると語ってくれた。》
《そして,この網膜電気刺激を実際に体験できるものとして作られたのが,昨年行われたバーチャルリアリティ学会にて展示された「ユニティちゃんに殴られたい」だ。バットで殴られた加速度を前庭電気刺激で出してやり,殴られたところに網膜電気刺激で光を見せるというものである。》
《二つの刺激があることで,かなりリアルな打撃感を味わえるということだが,「僕がバットで殴られたことがあるわけではなく,あくまで僕が思うバットで殴られた感覚に近いということです」と青山氏は補足していた。》