●散歩している時になんとなく思い出した。昔、台所は「お勝手」と呼ばれていた。建てかえる前の実家では、お勝手の脇に勝手口がついていた(そういえば、今の実家にも、キッチンの脇に勝手口的なドアがある)。軽トラで流している酒屋の御用聞きの人が「こんちはーっ」とやってきて、お勝手で働く母や祖母に注文を聞く。ビールとかジュース、醤油やみりんの類は、酒屋の御用聞きが家まで届けてくれていた。勝手口の外には、ビールケースが置いてあって、飲み終わった空の瓶をそこに入れておくと、御用聞きが回収していく。これらの会計は、月末にまとめてなされた。
(この御用聞きシステムが、何時頃までつづいたのかは憶えていないが、ぼくが中学生になるくらいの頃には、もうなかったような気がする。「サザエさん」の世界では、21世紀になっても御用聞きが勝手口から勝手に入ってきていたけど、今でもまだそうなのだろうか。)
ビンはリサイクル品なので返すとお金になる。子供の頃、飲み終わって空になったビンを酒屋に持っていくと、ビン代として5円とか10円とかもらえた。空ビンを二、三本みつけて酒屋にもっていけば、駄菓子屋で一番安いガムが買えた。
前の実家では、勝手口の三和土に風呂釜が置かれていた。さすがに薪ではなくプロパンガスだけど。風呂の火は勝手口で点けられる。風呂に入っていて湯がぬるい時、風呂のなかから「燃してーっ」と大きな声を出すと、お勝手にいる誰かが点火する。熱くなりすぎると「消してーっ」と言う。風呂と勝手口は壁一枚で隔てられているだけだが、動線的にはぐるっと一回りしないと風呂場から勝手口には行かれない。お勝手に誰もいないとけっこう大変。