●RYOZAN PARK巣鴨で、保坂和志「小説的思考塾 vol.5」。今回は〈死の問題〉について。以下の話は、保坂さんのした話とは大きくズレています。
●保坂さんにとっては、死はそれほど怖いものではないという。たとえば、全身麻酔を受けたときに訪れるまったくの無。死がそれと同じようなものであれば恐れるようなものではない、と。しかし一方に、死を強く恐れる人たちがいる。
ぼくには、死への恐怖が強くある。死への恐怖は、いわば無限に対する恐怖だと言い換えられる。死によって、有限なものでしかない「このわたし」が無限に触れてしまうということの恐怖。直に無限に触れることの恐怖。だから、死への恐怖というとき、死ぬのも怖いし、死なないのも同じくらい怖い、ということになる。
「わたし」は生きている限り死ぬことができる。つまり、「終わる」ことができる。しかし、死んでしまえばもう、終わることができず、どこまでも、ただひたすらとりとめもないもの(とりとめのない無かもしれないし、よくわからないが)となる。この、無限という概念がたまらなく怖いのだ。たとえば、「対角線論法」というものをはじめて知ったときのような、とりとめのなさが剥き出しに迫ってくるような恐怖。
(だから、意識のアップロードによる不死、のようなものでは---というか、そもそも「不死」では---この恐怖の解決にならない。)
ただ、救いがあるとすれば、「無限」という概念が、人類が生み出した誤謬である可能性もあるのではないか、ということだ。たとえば物理学は、物質というものがどうやら無限に分割可能ではなく、ある一定の閾値を越えるとそれ以上は(数式でしか表現できない)空を掴むようなものとなり、我々の考える物質とはまったく別物になるということを明らかにした。同様に、この宇宙にはそもそも「無限」などというものは原理上存在できない、という可能性もあるのではないか。
(無限とはそもそも、人間の認識能力のその先、というのを示しているに過ぎないのではないか、と。)
●それとはまた別に、恐怖への恐怖というものもある。わたしは死が怖い、というとき、その恐怖は「わたし」のものでしかない。ならばきっと「わたし」が消えればその恐怖も消えるだろう。しかし、恐怖という感情(情動)は「わたし」だけのものではない。この地球上の、ある一定以上に進化した生物のなかには恐怖という感情が確実にあるだろう。つまり、この宇宙のなかで、あるとき恐怖は生まれたのであり、少なくともこの宇宙には、恐怖を生成するに足りるなんらかの源基がもともと存在した。
ならば、この宇宙にはそもそも恐怖(の元)のようなものがあり、それが宇宙のごく一部でしかないとしても、この宇宙が無限定である限り、それ自体として無限邸で剥き出しの恐怖の源基が存在するのではないか。わたしの死によって、「わたし」という有限の限定が解かれたとしたら、そのような、無限邸で剥き出しの恐怖の源基と、直接的に、永遠に、とりとめもなく、触れ続けるということもあるのではないか。
勿論、そのときに恐怖に触れているのは(あるいは恐怖そのものであるのは)既に「わたし」ではない。しかし、「わたし(限定)」ではないからこそ、その恐怖にはとりとめがなく(底がなく)、終わりがなく、逃れようもなく、ひたすら強度としての恐怖そのものでありつづけるしかないのではないか、と。
(宇宙が恐怖を内在させているのならば、「わたし」という限定された視点を失ってしまえば、目を背けることすら不可能となり、常にそれと共に在りつづけるしかなくなるのではないか。「わたし」は無いとしても宇宙はあるのだから。)
(もしかすると「恐怖」とは、ある限定のなかでしか成り立たないものなのかもしれない。ならば、「わたし」の恐怖はあっても、宇宙全体としては、恐怖はないのかもしれない。とはいえ、宇宙のなかには常になにかしらの限定が存在するのだろうから、常にどこかには恐怖はあることにはなる。)
●「死」とか「不死」とか「無限」とかいう概念を、根本から考え直して変質させることができないと、ぼくにとってのこの恐怖は解決しない。
●樫村晴香さんが一時帰国していて、その機会に、9月16日に同じRYOZAN PARK巣鴨で樫村さんのトークがある。樫村さんの話を聞けるのは2013年の立命館以来だ。既に満席だそうだが。
https://furuyatoshihiro.hatenablog.com/entry/20081025
Ryohei Tomizukaさんによる「2008年樫村晴香トークショーのメモ」(note)
https://note.mu/t_m_r/n/n9961771686b5
https://furuyatoshihiro.hatenablog.com/entry/20130108
https://furuyatoshihiro.hatenablog.com/entry/20130109