●はじめて古井由吉を読んだのは二十歳前後くらいだったはずだから、今のぼくは、ぼくがはじめて古井由吉を読んだ時の古井由吉と同じくらいの年齢だということになる。三十年とちょっと前。
(手元にある、福武文庫版『槿(あさがお)』には、1988年7月11日第1刷印刷と書かれている。本に、大学の出席票が挟まっていた。はじめて読んだのは『槿』ではなく、たしか新潮文庫版『杳子・妻隠(つまごみ)』だったと思う。)
「踏みとどまる《膝》---古井由吉『白暗淵』論」(『人はある日とつぜん小説家になる』所収)という文章を書いたことがある。この時、あまりにも繰り返し『白暗淵』を読んだので、その後しばらく、古井由吉の文章を受け付けられなくなってしまった、ということもあった。