秋本将人「SEASON WITH SEASONING」

●久しぶりに、ちょっと面白い絵を観ることができた。恵比寿にある、ギャラリー工房"親(ちか)"http://www.kobochika.com/というところで観た、秋本将人という人の絵だ。ぼくはこの作家について全く何も知らなくて、もらったDMの消印が上野だったからきっと芸大の人なのだろうと言うくらいの予備知識しかなかったのだけど、新宿まで出る用事があったので立ち寄った。
ケーキのような構造をもった絵というか、作品の形態がケーキを模倣している。ケーキが、生地を二層に重ねて、その間にクリームを挟むように、小さな正方形のキャンバスが二枚重ねられて、その二層のキャンバスが、3×3の9枚集められて一枚の作品となっている。小さな正方形のケーキを九つ買って、それをきれいに並べた状態を想像して、それがその状態のまま垂直に壁にかかっていると思えばよいだろう。二層になったキャンバス=支持体はそれ自身が「物」としての存在感を強くもち、その表面に分厚く塗られた絵の具もまた、(ケーキにのったクリームのように)それ自身として「物」であることを主張する。しかし、そのキャンバスや絵の具は、キャンバスや絵の具それ自身として「物」であると同時に、その形態がケーキを模倣していることから、同時にケーキのようなものであり、つまりケーキというイメージを同時に(換喩的に)帯びている。そして、それと同時にまた、その表面に塗布された絵の具の色彩、質感、筆致は、絵画としての緊密な関係性を形作っているし、それが植物を描いたものであるというイメージも発生している。つまりそれは、キャンバスと絵の具とを組み合わせた(それ自身として)構築物であると同時に、「ケーキのようなもの」であり、そして「絵画」でもある。表面に塗布されている絵の具は、あきらかにクリームのようであり、フルーツのようであり、しかし同時に植物の形態やイメージを喚起するものであり、絵画としての質をもつものでもある。その構造が比喩的にケーキを想起させ、クリームに似た絵の具の質感の印象が味覚や舌触りを直接的に呼び起こし、絵の具同士の関係が植物のイメージを表象し、そしてその全体が絵画としての質と強さを獲得する。ケーキの構造と絵画の構造を重ね合わせるというアイデアは、それだけで十分に面白いものと言えると思うけど、ただそれだけでなく、そこに何かが「描かれ」ていて、絵画として質も持っていることが(何かを描こうという意思があることが)面白いと思う。
会場に置いてある過去の作品のファイルをみると、この作家はひとつの作風を追求するというより、様々なアイデアで絵画にアプローチするといった感じの作家らいしのだけど、どの作品もセンスを感じさせるもので、面白そうだった。会場には、展示してある作品をつくった作業台も展示してあるのだけど、よく見るとそれは、キャンバスの木枠を組み合わせて作ったものであることが分って、そういうところまで配慮がなされているというか、気が利いていて、感心させられたのだった。
ギャラリー工房"親(ちか)"での秋本将人「SEASON WITH SEASONING」展(http://www.kobochika.com/exhibition/index.html)は、1月27日まで。日、月、休み。