2022/02/20

●『感じるつちんこ ヤリ放題! 』(いまおかしんじ)をU-NEXTで。凄いタイトルだ。

いまおかしんじの今の作風がこういう緩い感じというのは分かってはいるが、それにしても、これはあまりに適当でやる気がなさすぎるのではないか、と、観始めたばかりの時は思った。10分くらい観たところで、そのまま観つづけようかやめようか迷ったくらいに。しかし次第に、なんだろうこれは…、と、ひっかかりが出てきて、ここまでなげやりなのはすごいことかもしれない、いや、今、自分はとても希有なものを観ているのではないか、という気持ちに徐々になっていき、後半には、これは本当に驚くべきものではないかという気持ちになった。

観たばかりの『ドライブ・マイ・カー』のことを考えた。『ドライブ・マイ・カー』が、妻が死んだことを受け入れるまでの話だとすれば、この作品は、夫が死んだことを受け入れるまでの話で、ほとんど同じ主題を扱っている。しかし一方は、熟慮に熟慮を重ね、仕掛けに仕掛けを重ね、原作に対する吟味と批判が仕込まれ、細部にわたるまで丁寧に、精密に作り上げられている。上映時間は3時間。他方は、どこまでも適当で、投げやりで、安っぽいつくりだが(実際、予算も製作期間も極めて貧しいものだと推測される)、そうであるからこそ可能であるような、シンプルでプリミティブな力強さと開放性が実現されている。それによって、ある種の神話的時空が成立しているように思う。上映時間は70分。映画って、全然これで充分なんじゃないの。ここからこれ以上特に何かを付け加える必要ないよね、とまで感じられる。

『ドライブ・マイ・カー』と『感じるつちんこ ヤリ放題! 』は、あり方はまったく異なるが、とても類似した主題を扱って、並び称されるべき作品なのではないか。

(この作品が強い力をもつ原因の1つに、死んでしまう夫の役を演じた櫻井拓也が実際に若くして亡くなってしまったという事実があり、それを知って観ることで、妙な形で現実とフィクションが重なってしまうということもあるのだが。もう1つ、堀禎一という、今はいない人のクレジットもみられる。)

『れいこいるか』もすばらしかったが、この作品はさらに過激に緩い。なんでこれで成り立っていると思えるのか、この状態を何故、面白い、すごいと感じてしまうのか。特にどうと言うこともないシンプルさと思えるものに何故こんなに心を動かされるのか。前半は、色々いい加減だなあとか思っているのに、ラストの涼川絢音のクローズアップがとんでもなくすばらしいと感じてしまうのは何故なのか(涼川絢音の衣装も、最初は「うーん…」という感じなのだが、最後には「これしかない」と思える)。よく分からない。

(失礼な言い方になってしまうが、いわゆる「演技ができない人」を撮る時に発揮されるいまおかしんじ作品の過激さには、唯一無二のものがあるように思う。)