2022/09/02

●U-NEXTで『イージー・ライダー』を、(実は初めて)観た。びっくりするほど素朴でシンプルな映画だった。当時はこの素朴さこそが新鮮だったのだろう。

特に前半は、デニス・ホッパーピーター・フォンダアメリカの大自然のなかをバイクで走り、バックにロックの名曲がかかり、その合間合間にちょろっと、カソリックの大家族で食事をごちそうになったり、ヒッチハイクで拾った男の招きでヒッピーのコミューンに立ち寄ったりといった、ちいさなエピソードが差し挟まれるという感じで、素朴でまったりとゆるい映画にみえる。

(LAで、コカインの密輸で大金を得た二人が、バイクでアメリカを縦断して、ニューオーリンズの謝肉祭を目指して旅をするというシンプルな話だ。)

とはいえ徐々に、二人の主人公と、保守的なアメリカとの摩擦が強く前景化してくる。

そもそもはじめから、長髪に髭のヒッピー風の風体に二人をモーテルは受け入れず、旅の途中はずっと野宿だし、途中の街でパレードについていったら、許可なくデモをしたといわれて逮捕されたりする。その留置場で、弁護士だというジャック・ニコルソンと出会って意気投合して彼が旅に同行する(ジャック・ニコルソンが野宿で、UFOと宇宙人---金星人---の話を熱心にするところに時代を感じさせる)。だが、飲食店で保守的な人たちから目を付けられ(大人の男たちは露骨に眉を顰め、若い女性たちは色めき立つ)、野宿で寝込みを襲われ、二人は怪我をし、一緒にいたジャック・ニコルソンは撲殺されてしまう。二人は彼の遺体を火葬し、目的地のニューオーリンズでは彼を弔うように、二人の娼婦と共にLSDでトリップする(このLSDは、ヒッピーのコミューンでヒッチハイクの男からもらったものだ、トリップ描写は、おそらく実体験に基づくものなのだろう)。

ニューオーリンズからの帰路、デニス・ホッパーが、俺たちは大金を得た、これで安泰だ、みたいなことを言うと、ピーター・フォンダは、いや違う、無理だ、と言うような不吉なことを言う(この映画でデニス・ホッパーは気のいいあんちゃんみたいな感じで、ピーター・フォンダは無口で思慮深い感じで、割とネガティブなことを言うキャラだ)。そして二人は唐突に、何の意味もなく虫けらのように撃ち殺されて、映画は終わる。

この映画がつくられた1969年は、ヨーロッパでは革命の季節だが、アメリカでは、ヒッピームーブメントへの弾圧が強まっていた時期だと言える。六十年代後半にはLSDが違法薬物に指定され、68年にはティモシー・リアリーが逮捕されている。この映画には、ヒッピームーブメントのゆるい大らかさと、それに対する保守層からの強い弾圧への怒りが、不思議な感じで同居している。