花粉が目にしみる。鼻にくる。ガンガンくる。
透明感のないべったりとマットな青い空に、カラスが数羽、点々と、ほとんど羽根を動かさない飛び方で、ぐるぐると舞っている。うんと高い上空を飛んでいて、幾層もの空気を通ってやってくる鳴き声には、震えるようなエコーがかかっている。
強く吹く風のなかを、黒い蝶々が、ほとんど吹き飛ばされているように、ヒラヒラ舞っている。
エメラルド・グリーンの軽自動車の車体に、風で大きく揺れる木の枝の影が映っている。
顔の大部分を覆いつくすような大きなマスクをつけた人がたくさん通りすぎてゆく。(「 東京暮色 」の原節子みたい)
テレビの上の、すっかり枯れてしまったシクラメンの鉢植えの土の表面から、乾燥してカチカチに堅くなった球根が露出している。指先で触れてみる。壊れたラジオから伸びるアンテナ。黄色く陽で焼けた、わら半紙。紙を束ねておくためのクリップ、の弾力を、手でもてあそびながら、感じている。
Tさんが、わざわざバイクで、森下仁丹の『鼻のど甜茶飴』を届けてくれた。ちょうど立ち寄った薬局で、安売りしていたとのこと。これは花粉症に結構きく。
若草色のシャツを着た人が、腕まくりをしている。ジャケットを脇にかかえた、前を歩く人の白いワイシャツに、日の光がきつく反射して、まぶしいくらいだ。強く吹いていた風が、すこしの間、ピタリと止まった。
いちめんにサビが出ていて、まるでヒョウ柄模様のようになった、黄色い大型トラックが、うなりをあげて発車する。土ぼこりと、黒い排気ガス
公園の、紅白の梅が見事に咲いていても、わざとらしすぎて、ほとんどなにも感じない。バナナの房のような葉をつけた、茎の部分が赤い木の、だらりと垂れた葉っぱの感じの方が、ずっと面白い。
西日を、たっぷりと浴びている、エアコンの室外機。その影が地面におちている。夕方になって、突風が吹くようになる。かなり冷たい風。ゆるんだ空気に、冷たい風が混じり合う。
階段の踊り場の蛍光灯が点滅している。クリーム色の壁が、チカチカする。壁にかすかなヒビ。
ガラス窓に、蛍光灯とテレビの画面が映っている。遠くには、マンションの灯り。電気ストーブのスチーム口から、立ち昇るしろい湯気。