●建物の一階のエントランスで立って人を待っている。暖房が効き過ぎていて頭がボーッとする。大理石風の床を、従業員がモップで磨いている。ワックスがしみ込んだものなのか、モップがかけられたところは光沢が違っている気がする。床には天井の蛍光灯が反射して、縞模様が出来ている。端から規則的にモップがけをしている従業員が次第に近づいてくる。ガシャンという派手な音が響き、ハッとしてそちらの方を向く。誰かが堅い床に鍵の束を落としたのだ。モップの従業員がすぐ脇まで来たので場所を空ける。たくさんの荷物を積み重ねて乗せた台車がガラガラと音をたてて通り過ぎる。モップがけが終わったので元の位置に戻る。靴の裏で床をキュッ、キュッと擦ってみる。ウイーン、と、自動ドアが開く音がして、外から冷気が入ってくる。それとともに、カン高い音の外国語で喋る集団も入ってくる。冷気はすぐに効き過ぎの暖房の暖かさと混ざり、どろっと曖昧になる。自動ドアが音をたてて閉まる。カン高い外国語の華やぎも遠ざかってゆく。腕時計を眺める。