2020-03-29

●『み・だ・ら』(鎮西尚一)をDVDで観た(ピンク映画は統一されたタイトルがないことが多くて、『み・だ・ら』はDVDソフトにつけられたタイトルで、ピンク映画としてのタイトルは『熟女 淫らに乱れて』で、鎮西尚一特集みたいな形で上映される時のタイトルは『スリップ』だ)。

失業して奥さんと別居しているアルコール依存症の男が、禁酒しているはずなのに焼酎を隠していたことで奥さんから愛想をつかされ、離婚届を送りつけられる。男は、失業保険が切れ、アパートを追い出されて住む場所もなくなって無気力になり、酒ばかり飲んで河原で栄養失調で倒れるが、仙人のような釣り人と古い知り合いのカップルに助けられて、工場での仕事も得て、なんとか、奥さんの実家まで署名した離婚届を渡しに行くことができるまでになった(川崎から沼津までカップルから借りたスクーターで)。とはいえ、男がこの先どうなるのかまったく心許ない。男が海辺にぽつんと一人でいるところで映画は終わる。物語といえばこれだけで、ぼんやりしているとさらっと終わってしまうこの60分ちょっとの映画をぼくはとても好きで、定期的に観たくなるのだが、アマゾンで探しても中古DVDもないし、DMMでもFANZA動画でも、他のどこでも配信されてもいないので、ツタヤディスカスから郵送でDVDをレンタルするしかない。

さらっとしているのにいちいちかっこいい。時間の省略の仕方など、何度観ても、おおっ、と思うところがある。あらゆる場面、あらゆるカットが、しみじみと良いのだが、特に、カップルの住んでいる古い日本家屋と、奥さんが家事介助をしている一人暮らしのおばあさんの家がとても良い(このおばあさんは亡くなった夫の幽霊と一緒に住んでいる)。カップルの女と奥さんとは友だちで、男の乗ってきたスクーターを回収するために沼津までやってきた女と奥さんとが、家事介助しているおばあさんの家で、女三人で日本酒を呑み、「わたしも歳をとったらこういうところに住みたいな」とか言っている場面はとても好きだ(アルコール依存症の男は、抗酒剤で禁酒を強いられるか、呑んでしまったらぐだぐだになるかどちらかで、こんな「いい感じ」で呑むことは許されないのに)。この、女三人のいい感じのスリーショットの後に、たった一人で取り残され、海辺によるべなくたたずむ男の場面で映画が終わる。

(「仕事楽しいし」「わりとなにやっても楽しい方だと思う」という奥さんに対し、男は「いやいや起きて、いやいや仕事をして、いやいや眠る」と言う。)

失業して河原で時間を潰し、住む場所を失って河原で過ごしていた男が、海にまで流れ着いてしまって、この先どうなるの?、で終わり。