2025-09-17

⚫︎『蛋ヶ岳学会事件』(寺西涼)をU-NEXTで。20分の短編。これは習作という感じだが『屋根裏の巳已己』とどちらが先なのだろうか(どちらも2020年とクレジットされている)。病院で清掃の仕事をする男が、アパートの自室で密かに自分の精子と鶏卵を掛け合わせる実験をしている…。

(そういえば『屋根裏の巳已己』でも主人公は清掃を仕事をして奨学金を返しているという設定だった。)

精液、と混じる割れた卵、そこから生まれるグロテスクな肉の塊=胎児、というイメージの連鎖が「鶏肉料理」へと連想的に繋がっていく、液体と肉塊とがぐちゅぐちゅしているような生理的拒否感をもよおすイメージ群(『イレイザーヘッド』を思わせる)が一方にあり、しかしもう一方に、病院の無機質な空間、の、白い壁、白いカーテンやシーツ、白い制服(しかしここにも、患者の失禁の跡や先輩看護師の悪意といった「シミ」が侵入している)、そして看護師の女性と年配の夫との間の無機質で不条理な対話(説明抜きの断定的な単語の羅列、繰り返される足し算)がある、という、「湿って濁ってぐちゅぐちゅな不定形」と「乾いて白くて硬くて幾何学的」みたいなテクスチャーの対比によってできているような作品。

妊娠中だった看護師は、主人公にグロテスクな胎児の写真を見せられたことが原因であるかのように流産してしまう。そして看護師は、復讐のように胎児への殺意を持って主人公の部屋を訪ねる。だが、グロテスクな肉の塊だったものは急激に成人女性の形へと成長していた、という意外な展開をオチとして作品は閉じられる。

それなりによくできているとは思うけど、そこまで素晴らしいとは思えないが、病院の空間、特に病室の造形などが面白いと思った。