●夢。目が覚めたら、まったく見ず知らずの場所に一人でいた。ここから、どのようにして帰ればいいのか。幸い、携帯電話には地図が表示される。だが、それはたんに自分が居る場所の半径百メートルくらいの範囲の地図でしかなく、ここが、日本地図のなかでどのような位置にある場所なのかが分からない。とりあえず、広い道路を地図上で探し、道路に沿って歩いてみる。自分が移動すると、携帯に表示される地図も移動するので、GPSは辛うじて作動しているようだ(実際にぼくが持っている携帯は古いものなのでそのような機能はない)。道路標識によって駅が近いことを知り、駅まで行けば、ここが「どこ」なのか分かるはずだと思う。駅は期待に反してきわめてこじんまりしたもので、小さな古い商店みたいで、駅員もいなくて、売店のおばちゃんが取り仕切っているようだった。路線図を見ると、ここは日本海側にある小さな町であるらしい。路線は、海に沿ったいくつかの駅を直線的に結んで往復しているだけで、別の路線への乗り換え駅もなく、太平洋側へ戻る術はないようだった。発車ベルが鳴り、黒板にチョークで書かれた時刻表を見ると1日に数本の電車しかないので、どこに行くのか分からないがとにかく急いで切符を買って電車に乗った。電車は異様に高い高架を走り、切り立った崖が迫っている。車内にはイスがなくて、ガラスの陳列ケースが並んでいるが、その中には何も陳列されていない。閉店した飲食店を思わせた。立ったまま窓の外の景色を眺めていると、唐突に、けっきょく、行ったり来たりだよ!、という投げやりな気持ちがこみ上げてくる。まあまあ、そうやけになるなや、と農作業帰りの土地の老人がたしなめてくれるのだった。