●西川アサキさんを中心として、掬矢吉水さん、柄沢祐輔さん、ぼくで、VRに関する研究と実作を行う集団「ベクション」を立ち上げ、渋谷で最初の会合。「ベクション(vection)」とは、視覚情報によって生じる偽の運動感覚、あるいは、視覚的運動感覚と身体的運動感覚のズレのこと。他に、病原体感染という意味もあるみたいだけど。
西川さんの持っているヘッドマウントディスプレイ(GearVR)で360度写真を経験したのだけど、これがかなりヤバかった。たんに、360度に視野が開けている写真というだけなのだが、ICCで経験した藤井直敬+GRINDER-MAN+evalaによる作り込まれたSR(代替現実)作品よりもずっとおもしろかった。おそらく、静止画で時間が止まっていることと、視点の主であるはずの自分の身体がその世界のどこにもないということが大きいのだと思う。特に、自分の身体が見えないことの違和感はかなり大きい。
通常、下を向くと自分の脚が見えるのだけど、下を向いても何もない。この感じがすごく不思議だった。それが、人間の視点の高さで撮られた写真では、「なんだこれ、気持ち悪い」という感じなのだが、人間の視点より高い位置で撮られた写真になると、完全に自分の身体が消失して、意識(視覚)だけで存在しているような感覚が得られた。自分がベッドで眠っている姿を、天井の当たりから見ているみたいな幽体離脱経験は、きっとこんな感じなのだろうというような。こんな感覚はおそらく夢のなかでしか感じたことがないものだ。
ICCの藤井作品では、「この程度だったら3D映画の方がずっとすごい」という感想だったのだけど、360度写真は、今までにない新しい経験だと感じられた。
造り込まれた、スペクタクル性の高いVRコンテンツは、これから様々な企業や研究機関が莫大なお金と人とを使って、どんどんつくるだろう。そういうものではなく、シンプルだけど、人の感覚や経験の根本を揺さぶって変容させてしまうようなものをつくることが、VRでは可能なのではないかというのが、ベクションのコンセプトだ。シンプルではあっても、現代美術作品のような文脈依存でコンセプト勝負のものではなく、あくまで感覚的、経験的な次元で変容を起こさせるような精度の高いものを目指すという感じ。