2020-07-21

●『喜劇 特出しヒモ天国』(森﨑東)。これは文句なくすばらしい。80分弱のなかに様々なものがこれでもかという感じでぎっしり詰め込まれている。そして、このとんでもない密度の濃さのなかでもくっきりと際立つのが芹明香藤原釜足一家が火事で亡くなった葬儀の場で芹明香がふいに歌い出し踊り出す場面には本当に驚いた。こんなダンスシーンがあるのか。そして芹明香の眼。カメラが芹明香の腹から胸、胸から顔へと動いていく。背景で歌われている「黒の舟歌」が「地獄が見えたこともある」という部分にさしかかる。そこに芹明香の空虚そのものを見ているような眼があらわれる。ひたすら続く乱痴気騒ぎであるこの映画をまるごと吸い込んでしまうような、それ自身が空洞である眼。