●小暮夕紀子という作家をいままでまったく知らなかったけど、「文學界」九月号に載っていた「裸婦」という小説がよかった。幼い娘の、「性的な母」に対する微妙な忌避の感覚と、成長した娘の、死に近い(遠ざかっていくものとしての)母へのまなざし。
《父が死んだのだ。石段の下で冷たくなっていたのを、近所の人が見つけてくれたのだった。桐子はそのことを母に話しに来たのだが、実はすでに四十九日の法要までをも済ませていた。父と母は離婚していて、すでに二十年以上経っている。にもかかわらず、葬儀に出たいと言い張ったら面倒だし、あるいは、よもやとは思うがショックを受けたら、などとも一応は考えた。そんなわけで、なんとなく日柄のよさそうな頃合いを見計らっていたというのもある。》
《母が振り返った。
「写真、撮ってくれないかしら、そこから」
「後ろから?」
「そう、それを遺影にしたいのよ」
「つまり顔は写さないってことね」》