夢をみた

夢をみた。小さなオープンカーで、友人たちとドライブをしている。この友人たちは、夢のなかでは友人という設定になっているが、現実のぼくの友人とは違う。そのことをぼくは、夢のなかで意識している。ドライブをつづけるうち、車は妙な場所へ入り込む。戦災にでもあったかのように、ボロボロに崩れた建物が達ち並び、建物の壁から剥げた塗料とか紙屑とか、とにかく細かい屑のようなものが、至る所で風に吹かれてヒラヒラ舞っている。生暖かい湿った風が、強くもなく弱くもなく、常に一定に吹きつづけている。風景の感じも何となく妙だし、人々の様子もどことなく変わってる。友人のうちの一人が急に表情を曇らせて、ここはぼくが生まれた地方と同じ人たちの場所だ、と呟く。お前、どこの出身だっけ、と聞いても、何も答えない。その男の導きで、小さな貧しい小屋のような家屋にみんなで入ってゆくことになる。小屋の内部は外にも増して細かい紙屑で溢れていて、障子や壁紙もびりびりに破けて、そのままだらりとぶら下がっている。そこの住民は、ぼくたちを遠巻きにして恐れるように眺めている。ここでは小屋全体で蚕を飼っているらしく、床に散乱している紙屑の下で、無数の蚕がガサガサと動いている。一歩、足を出すごとに、蚕を踏み潰してしまい、ブチッ、という感触が足の裏に感じられる。その感触に耐えられず、小屋に入る時に脱いで手に持っていた靴を履こうと思ったのだが、片方をなくしてしまったようだ。小屋の内部は以外と広くて、迷路のようにどこまでも続いている。所々に一塊になった住人たちがいて、ぼくらの方に非難がましい視線を送っている。迷路はいつの間にか外へと通じていて、ヘドロのように黒々とした、泥だらけの坂道を下っていた。そこでも片足は裸足だ。空も真っ暗で、道のまわりだけが、ぼうっと明るい。しばらくして坂を登ってくる警察の一団と出会う。警察は、ヘドロのように黒々とした泥にまみれた犬や象といった動物たちを荒っぽく強引に連行している。ぼくは、警察の犬たちに対する態度を許せないと感じ、抑え難い怒りが沸き上がってくるのを感じた。しかしその一方で、警察がこれをやらなかったら困るのは我々なのであって、彼らは、いわば「汚い仕事」をぼくらにかわってやってくれているのだ、ということを頭ではきちんと理解しているのだった。それでも沸き上がってきた感情を抑えることが出来ずに、警官たちに抗議をしようとするのだが、あまりの興奮で舌がもつれて言葉にならず、それでも、居ても立ってもいられなくなって彼らに殴りかかろうとしたのだが、足がもつれて転んでしまい、ヘドロのように黒々としていて妙に粘ついて嫌な臭いのする泥に、全身どっぷりと浸かってしまったのだった。