『よつばと!』(あずまきよひこ)の3、4、5巻を読んだ

●『よつばと!』(あずまきよひこ)の3、4、5巻を読んだ。さすがに、ここまで要素を限定した抑制された展開だと、後に行くにしがって段々に苦しくなって(単調になって)ゆくように思う。(しかしこれは、単行本が既に五冊出ている時点で読み始め、短期間に通して読んでしまったぼくの読み方がわるいのかもしれないのだが。)登場しないのかと思っていた隣の家の父親が何気なく、しかし唐突に登場しても、2巻で、あさぎがいきなり亡き父の思い出を語り出し、いや、父さん死んでないから、とツッコミを入れられるシーンの流れほどの意外な驚きはないし、母親によってあさぎの少女時代の回想が挿入されても、1巻で母親に、風香を生んだのは正解だったと語らせたあと、「でも、あさぎは失敗」と、さらっと言わせてしまうシーン程の新鮮な面白さはない。虎子ややんだといった新たな登場人物も、『よつばと!』の世界に新鮮な風を吹かせるほどのものでもない。(決して面白くないわけではないけど。)
このマンガの微妙なところは、『ドラえもん』や『サザエさん』のように、全く安定した、時間の流れない世界ではなく、微妙に変化や展開があり、非常に安定的でありながらも、時間は確実に流れているらしいというところにある。例えば『ドラえもん』は1話完結の話であり、基本的に、ある話で何かしら新たな要素がその世界に付け加えられたとしても、その話が完結してしまえばそれはリセットされ、その後の話に影響することはあまりない。つまり、1話のなかで世界に動きや混乱があっても、それは1話の枠内からはみ出ることなく、基本設定は動かない。しかし『よつばと!』では、基本的に1話完結はかわらなくても、例えば風香の失恋はその後の話にもつづいているし、みうらちゃんのハワイ行きをうらやましがるジャンボが、その後の話で唐突にハワイへの一泊旅行から帰って来るシーンがあったりして、つまり基底的な時間が1話完結を超えて通底している。基本的に凄く安定しているけど、世界は緩やかに動き、時間もゆるやかに流れている。(一度起こった出来事は、その後の世界を僅かではあっても不可逆的に変質させる。)しかし、よつばというキャラクターはいわば「時間の外」にいるようなキャラクターで(タラちゃんが成長することが考えられないように、よつばが成長することも考えられないだろう)、この、時間が流れる世界と、時間が流れないキャラクターとの齟齬との調整が、今後ますます難しく、苦しくなってしまうのではないかと感じられた。(しかし、このマンガの新鮮さはその「齟齬」にこそあるのだけど。)これは誰でもが思うことだろうけど、夏休みが終わっちゃいそうなんだけど、これから一体よつばはどうなるのだろうか、という大きな問題がある。よつばが学校に行くということになれば、作品世界はまた大きく広がり、新たな展開の要素も出て来るだろうけれど、しかし、それでもなお『よつばと!』の抑制された独自の世界を持続出来るかというと、それは、かなり難しいように思われる。(1、2巻を読んでいる時は、まさか『よつばと!』に、「夏が終わりそうな気配」が描かれるとは思ってもみなかった。ずっと夏休みということにするのだと思っていた。秋になって隣の子供たちが学校へ行くようになっても、よつばだけは学校へは行かない、という展開もあり得るけど。いずれにしても、作品内で時間が流れることが選択されてしまっている以上、この作品はそう遠くない将来に完結してしまうしかなく、『ドラえもん』『ちびマル子ちゃん』『クレヨンしんちゃん』などのような、延々と安定的に続く人気シリーズというわけにはいかないのだと思う。そうなったら、「別の作品」になってしまう。)
●本屋で『よつばと!』を買った後、古本屋を何件かまわり、古いマティスの画集(今まで見たことのない面白い作品が何点が載ってたから買ったけど、図版が酷くて、色が良くないだけじゃなくて、図版写真のピントがボケ気味で、解説の文章がすごく偉そうな口調だ)や、楳図かずおのマンガ(『洗礼』と『アゲイン』)を買って、その勢いでブックオフをのぞいてみたら、「単行本全て五百円セール」というのをやっていたので、何故か目についた『新世紀エヴァンゲリオン絵コンテ集』(1)(2)を買ってしまう。パラパラ眺めているうちに、何となく「見方」が分かってきて、見方が分かると、ラフに描かれただけの絵コンテから、(たんにカット割りとか構図だけではなく)かなりちゃんと「動き」がみえてくるようになるので驚いた。潜在的に動きを含んだポーズや表情というものがあり、それを的確に捉えさえすれば、ラフな静止画だけで、それをどのように動かしたいのかをかなりの程度まで示すことが可能なのだなあ、と感心する。これは、人の目がどのように「動き」を感じているのかということとも関係する。勉強になります。(あと、驚いたのは、絵コンテの段階で、風景がかなり具体的に細かく描き込まれていることで、ここまで詳細にイメージができているのかと感心した。絵コンテがこんなに面白いものだとは思わなかった。まあ、物珍しいということもあるのだけど。)