●銀行のキャッシュカードを無くしたみたいだった。ぼくは財布やカード入れなどを持たず、お札も小銭も各種カード類も、もらった名刺やちょっとしたメモや領収書も、鍵なんかも、適当にあちこちのポケットに突っ込んであって、今まで特に困ったり、大事なものを無くしたりとかもなく、それで済んでしまっていた。しかしさすがに、お金を引き出そうとしてカードがないことに気づいた時には、この習慣を改めるべきではないかと反省した。二、三日探してみてもみつからないようならば、再発行してもらう手続きをしに銀行まで行かなくてはいけないだろうと思ったのだった。
それが二、三日前のことで、昨日の夜、ちょっと酔っぱらっていて、本棚に入りきれずに床に積み上げてある本を足でひっかけて崩してしまい、あーあ、と思いながら崩れた本を積み直していると、そのなかの一冊のページの間から、無くしたと思っていたカードがパラッと落ちてきたのだった。カードは、四、五日前には使っているので、無くしたのは確実にその後のはずなのだけど、その本の山は、ここ一ヶ月ぐらいは触っていないはずだし、カードが挟まっていた本を最近手に取ってみたという記憶もない。狐につままれたというか、マジシャンの手の中にあったはずのカードが、自分のポケットから出てきた、みたいな、(あって助かったのだけど)不思議に納得がいかない気持ちなのだった。