●日付を間違えた。明日の日記が今日の日記で、今日の日記は明日の日記。
●レンタルのDVDが出ていたのでシャブロルの『刑事ベラミー』を観た。去年、特集上映があったのをきっかけに新しくDVDソフトが何本も出て、さらに前からある古いビデオソフトなども含め、シャブロルを何本も観てそれぞれ面白かったのだけど、なかでもぼくにはこの『刑事ベラミー』が圧倒的に面白かった。というか、人から勧められて劇場で観た『刑事ベラミー』がすごかったので、他のシャブロルも観ようと思ったのだった。とはいえとて複雑な映画で、一回観ただけでは頭が混乱しているところもあって、もう一度観たいのでDVDが出ないかなあとずっと思っていた。
●この映画は要するに、「オレは運がいい」という言葉を重く複雑に響かせるための映画なのではないかと思った。
●二組の夫婦「A(ベラミー)−B(妻)」と「C(犯人?)−D(妻)」があって、二組のそっくりさんのペア「A(兄)−E(弟)」(関係的類似)と「C(犯人?)−F(被害者?)」(形態的類似)があって、二人の警視「A(主人公・尊敬されている)−G(映画では不在・軽蔑されている)」がある。つまり、二つの「ペアのペア」と一つのペアがある。この映画の中心にあるのはこれらの関係であろう。主人公のベラミー(A)は、これらの関係のすべての一部(一項)として組み込まれている。
その他にもこの映画にはいくつものペアがあらわれている。「C(犯人?)−H(愛人)」、「F(被害者?)−I(ホームセンター店員)」、「J(歯科医)−K(整形外科医)」、「G(不在の警視)−H(愛人)」、そして(もしかすると…)「E(Aの弟)−B(Aの妻)」も?(潜在的関係)……。項が複雑に重複した様々なペアがあり、ペアのペア(関係の関係)があり、複数のペア間の共鳴がある。つまり、夫と妻との関係があり、兄と弟の関係があるだけでなく、二組の夫婦の間にも関係があり、二組のそっくりさん関係の間にも関係がある。あるいは、夫と妻の関係と、兄と弟の関係と、警視1と警視2との関係という三つのペアの間にも相互作用が働いている。どの人物も、あるいはどのペアも、少しずつ似ていて、しかしどこか少しずつ違う。ズレたり重なったりしつつも、互いに互いを映し合い(表現し合い)、反発し合い(干渉し合い)、絡まり合っている。そしてどの人物(項)も、欠陥があり、魅力があり、きわきわで生きている。
そのような、様々な関係と力の反響と絡まり合いのなかを、歩くだけでぜいぜいと息が荒くなってしまうほどに太り過ぎたベラミーが、捜査という理由によってたどたどしく分け入り、移動してゆく(この捜査はあくまでバカンス中の私的な捜査なのだ)。この捜査を通じて、生活に余裕があり、夫婦仲もよく、有名人でもある、成功した男であるように見えていたベラミー自身の存在が揺らいでくることになる。すべての人物がきわきわでようやく安定を保っているから、天国と地獄は紙一重である。成功して安定しているようにみえるベラミーにも様々な潜在的な危機があり、それが、捜査の過程で様々な関係と関係することによってあらわになってくる。この危うさをドバルデュー(ベラミー)の太り過ぎた身体が表現しているとも言える。
そして、関係の網の目のなかに落ち込みそうになっていたベラミーは、ぎりぎりのところで妻によって助けられる。「オレは運がいい」という言葉は、これによって重く響く。ベラミーは、自分が妻によって助けられたのと同様に、暗闇に落ち込みそうになっていた犯人(?)を助けることになるだろう(犯人を助けるために、被害者の元恋人までもが協力する)。ここだけみればうつくしい愛の話だ。しかしベラミーは、暗闇に落ち込んでしまった弟を助けることは出来なかった。「オレは運がいい」という言葉は、「運のよくない」弟を見捨てるという意味を潜在的に響かせている。それは、犯人(?)が被害者(?)を、積極的に殺しはしなかったにしろ、助けることもなかったのと同様のことだ。そしてそれは、被害者の元恋人の、「被害者を救うことが出来なかった」という思いとも響きあう。ここで、ベラミーによる、「オレは運かいい」という言葉と「オレは最低だ」と言う言葉がぴったりと重なり、共に重たく響く。もちろんこの映画は、そのようなベラミーを高みから批判しているのではない。
以下は、『刑事ベラミー』を最初に観たときの感想。
http://d.hatena.ne.jp/furuyatoshihiro/20110701
●『シュタインズゲート』を初めて観ている時、ダルの一言一言をいちいち検索して調べたけど、その学習のおかげで『ロボティクス・ノーツ』のフラウのセリフがほぼそのまま理解できる(「ふらうこうじろ」って「おかざき乾じろ」みたい)。ただ「立ったら書く」だけがなかなか聞き取れなかったし、調べてはじめて理解できた。ネットスラングって、声として聴くと割といい感じ。