●マキファインアーツの末永史尚展では、並べられたCDケースを描いた(という言い方でよいのだろうか)作品がおもしろいと思った。物体が三次元としてある状態が、すごく絵画っぽく見える。この展覧会で展示されている作品はどれもそうだと言えるけど、特にCDケースの作品が、三次元であることによって、絵画であり得ている、という感じが強くあるように思った。三次元であることが特に強調される、右斜め上とか左斜め上から見た時に、もっとも絵っぽく見えた。
これは、彩色された板が複数枚並べられた状態が、絵画の絵の具の層構造(基底材があり、地塗りがあり、下塗りがあり…)を連想させるということもあるかもしけないし、見えていない面も彩色されているという気配が、絵画の、もっとも表面の絵の具とそれに覆われることで隠された下の層の絵の具との関係を想起させるということもあるかもしれない。絵画の平面を構成する層構造は厚み(絵の具の各層の厚みの集積)をもっており、極端なことをいえば、三次元的構造をもつ物を正面から見ることで二次元の像として受け取っているとも言える。二つの次元に比べると、三つ目の厚みという次元は無視してもよいほど小さいので、ほぼ二次元としてあつかい得る、と。だから、CDケースの作品は、隠された絵画の三次元構造を可視化している、と。
しかしそれ以上に(会場におかれたテキストで成相肇も指摘しているが)、その「影のなさ」という性質によるところが大きいように思われる。フラットに塗られた面という時、感覚的には、そのフラットさとは色の塗りの平滑さ均質性のことを言っているより(実際、塗りムラから下地が透けていたりするので、完全に均質ではない)、そこに「影が存在しない(できない)」という性質を指している場合が多い。たとえば、絵の中の「影のない、フラットに描かれた消しゴム」の上には影は射さない(影を射させることは不可能だ)。「消しゴムがフラットに描かれた絵」の上に影は射しても、それは物質としての「絵」に射した影であって、絵の中の描かれた像としての消しゴムに射した影ではない。絵の場合、物としての絵は三次元空間のなかにあり、表象としての「消しゴム」は二次元空間(あるいは絵の中の三次元的イリュージョン)のなかにあるという風に、実体=三次元、表象=二次元と階層的に分離される。
末永史尚の描くCDケース(ジャケット含む)は、三次元であり、大きさも実物大であり、そのレーベルが特定できる程度には再現的でもある。しかし、ジャケットの絵や写真まで忠実に再現されてはいなくて、色面のフラット化による一定の抽象化が施されている。さらに、絵画的な絵の具の層構造もみられ、ハケによる塗りのムラも残される。それらの特徴は、三次元的に存在しているが、描かれた絵でもあることを示している。立体物をそのまま立体的に再現しているように見えるこれらの作品を「絵画」にしているのは、その抽象化のさじ加減であると言えると思う。
三次元として存在していても、絵画として描かれている。物質とそれが表象する対象とが三次元として構造上は一致しているが、実は一致していない側面こそが問題となっている(ボリス・グロイスが指摘するフィシュリ&ヴァイスの作品のような、実物と見分けのつかないシミュレーションではなく、そこにある感覚可能な「ズレ」のありよう---表象される対象と、どのように、どの程度ずれているか---こそが問題となる)。この不一致により、仮にそこ(物質)に影が射したとしても、(表象には)影は射していない、ということが、同じ三次元的な構造において可能になる階層性の分離が生じる。この論理的分離は感覚にも作用する(たとえぱ人の感覚は、写真に写った影と、写真を見る時に写真に射した影とを、階層の違うものとして無意識のうちに分別している)から、この分離によって、立体物(しかも日常的なありふれた物)であるにもかかわらず決して影が落ちることのない何か、立体なのにフラットである(不可能なはずの)何か、という奇妙な状態の感覚が出現する。三次元であることによって絵画になっている、というのは、そういうことなのではないかと思う。
(成相肇のテキストの「1」の部分とほぼ同じことしか書いていないという気もするけど、ちょっとニュアンスが違っているところは、ぼくが言いたいのは「現実の影に対する色面の拮抗」というより、現実の影が射すことが不可能になるような「論理的な構造」が実現されているのではないか、という点です。まあでも、ほぼ同じ方向で、少し理屈っぽく考えてみた、ということに過ぎないのか。)
●下のリンクはマキファインアーツの末永史尚「息づきの絵画」のページ。成相肇によるテキストも読めます。ただ、この日記をアップする時点で既に展覧会は終わってます(5月1日が最終日)。
http://www.makifinearts.com/jp/exhibitions/suenaga_2016.html