国立新美術館ジャコメッティ展は、ジャコメッティの様々な側面を多角的にみせようとしているのは分かるのだけど、それによって一つ一つの側面のツッコミが足りない感じで、やや散漫であるように思われた(特に絵画作品については、スケッチやリトグラフばかりで物足りなかった)。また、チェース・マンハッタン銀行のプロジェクトのための大作は、ジャコメッティの作品としてはあまり良い物ではないと感じた。この大きさの作品をつくる必然性が、ジャコメッティにはなかったのではないかと思った。
とはいえ、展示の前半はかなり見応えがある。ジャコメッティの作品は異様に「引き」が強いというか、ぐぐっと引き寄せられて囚われてしまう感じがある。ジャコメッティは、初期の、キュビズムシュールレアリスム期の作品もかなり充実していて、今回はじめて観ることができた「キューブ」という作品などは、後のジャコメッティの作品から受ける、触れようとしてもするっとすり抜ける感じ、というか、距離のとりづらさの感触が既にあって、とてもよかった。
異様に小っちゃいシリーズや、「群像」のシリーズをまとめて観られたのもよかった。小っちゃいシリーズはまさにジャコメッティ的だし、「群像」のシリーズを観ると、ジャコメッティの空間感覚がいかに変なのかを、改めて思い知らされて面白い。「群像」シリーズはもっと観たいし、これについては改めて考えてもみたい。
それと、ジャコメッティの人体彫刻には、モデルの名前がついているもの(ディエゴとかアネットとか)と、非人称的なもの(女性立像とか大きな人物とか)があって、その両者を行ったり来たりしているのだなあ、と。
ジャコメッティはアトリエにこもって制作しているというイメージだったけど、最晩年に、パリのあちこちをスケッチしてまわっていたシリーズ(「終わりなきパリ」)が、150点も制作されてと知って意外だった。でも、このシリーズも少ししか展示されていなくて、このシリーズによってジャコメッティが何をやろうとしていたのかまではよく分からなかった。