2023/03/06

●『怪談 回春荘 こんな私に入居して』(古澤健)をU-NEXTで。前から気になっていた(随分前にマイリストに追加してあった)が観る機会を逸していた。全然怪談じゃないし、思っていたのと随分違っていたが面白かった。

話の辻褄が合わないところを、たんに、主人公(石川雄也)が自分の都合のいいように記憶を改竄しているのだと考えると、よくあるサイコ・クライム物と変わらないが、(おそらく警察による取り調べの時のものであろう)「これ、あんたのか」という言葉(声)が、固有の位置から切り離され、時間を遡行して効果を発し、複数の時空に現れ、事後的に時空を作り変えてしまったのだと考えると面白くなる。あるいは、そもそも主人公はあらゆる事柄を自分にとって都合のいいように解釈する自分勝手な人物だが、その徹底された自分勝手さが「時空そのもの」にまで影響を与えてしまったのだ、と。

最初に画面が三分割になる場面は、「主人公の妄想」であると解釈して間違いないと思うが、しかしそれが「三分割された画面」として表現されてしまった時から、既に時空の歪みは準備されていたのだとも考えられる。

(細川佳央が分裂し、しまいには美園和花まで―-目撃者として-―分裂してしまうような時空の、その端緒は明らかに最初の三分割画面にあるだろう。)

クリーピー 偽りの隣人』で、西島夫婦の家と香川の家と地下室との異様な関係は、時空そのものを歪ませるまでには至らなかったが(この映画の発想時点で「クリーピー」が意識されている可能性はあると思った)、この映画での、主人公の部屋と、ヤバい奴が越してきた部屋、そして大家の家という「三つの場」の空間的な関係は、それ自体がすでに時空を歪ませるポテンシャルを持っていたとも言えるのではないか。

(これはもう一回、詳細に観てみないとはっきり言えないが、主人公は、金がない、家賃が払えないと言いつつ、かなり広い部屋に住んでいて、しかも物がとても多いのだが、この部屋の空間の構築が面白い。一方の窓が、ヤバいやつの住む部屋の方を向いていて、もう一方の窓が大家の家の方を向いていて、主人公の部屋の空間が、それ自身のみで三つの場の関係を表現している。)

追記。「回春荘…」は成人映画(R-18)だが、それをR-15版に編集し直した『キラー・テナント 迷宮の宴』もU-NEXTにあることを発見した。「回春荘…」は70分だが「キラー…」は77分なので、かなり違っているのだろう。