カフカ祭り

●夢をみた。大きな川のほとり。川沿いの道にはレンガが敷かれ、ベンチが設置され、街路樹も植えられていて、細長くつづく公園と言うか、散策コースのように、きれいに整えられている。だがそこは、街灯がほとんどなく、夜になると暗い。今、この川沿いの一角では、商店街だか、地元青年団だがが主催する「カフカ祭り」が行われている。ちなみに、この夢のなかでは、カフカという言葉は「螢」を意味する。真っ暗な川沿いの遊歩道を、カフカ祭りの提灯が、ぽつりぽつり半端な間隔をあけてあり、弱々しい光を放っている。祭りの最中なのに見物客はほとんどいない。鳴りものが聞こえるわけでもない。ただ、祭りに乗じて、カフカを安く買い、高く売りつけようとする、ダフ屋のような連中が集まっているのが、闇のなかのぼうっとした光で、黒い影のように見える。カフカ、アマッテナイカ、アマッテタラ、カウヨ、カフカ、モッテルカ、ナケレバ、アルヨ。その声は低くぼそぼそしたもので、しかも、日本語を理解しない人が、ただ音だけを真似ているというような響きだ。そのうちの一人から、話しかけられた。だが、よく話をきいてみると、その男は「カフカ」が一体何であるかを実は知らないらしいのだった。そこでぼくは、カフカとは、こういう感じの虫で、尻が光るのだ、ということを説明する。すると男は、嫌な顔をしてオーと声をあげ、仲間たちのところへ行き、呪文のような言葉で何かを必死で喋るのだった。集まった影たちからどよめくような声が洩れ、影がゆらゆらっと揺れたような気がした。どよめく声は、次第に、明らかに不満を表明するような愚痴じみた口調に変わり、影たちはそれぞれに不満げな声をあげながら、バラバラと散らばり、闇のなかに消えていった。見物人もいないし、商売人も消えてしまったが、無人のまま、まだ祭りはつづいているらしいのだった。