『フリクリ』(3)〜(6)

●『フリクリ』(3)〜(6)。これはたんへん充実した作品だと思う。ちょっとついていけないような「アニメ」独特のノリが濃厚にあって、そういうものに拒否反応を示す人にはキツいかもしれないけど、しかしこの作品の充実は、そのような「独特のノリ」の高濃度な圧縮によってつくられているのではないだろうか。10日の日記にも書いたけど、このような作品の充実は「ジャンル」の成熟というか「爛熟」のようなものによってしか生まれないのだと思う。全体として主人公の成長物語になっていて、それは「アニメ」の定石だろうし、この作品はいわば「定石」の唐突なコラージュによって出来ている。(作品全体の感想としては、10月10日の日記に書いたこととかわらない。)
●この作品で秀逸なのは何と言っても、頭からロボットやら怪物やらが出てくることで、例えば第1話で主人公ナオ太の頭に出来たツノのような瘤のような突起物(これはあからさまに勃起したペニスの形をしている)が、いきなり巨大に膨れ上がり、それが破裂してロボットと怪物が出て来て闘うことになる。(これは本当に素晴らしいシーンだと思う。)このこと自体は、言ってみれば、心のなかの「良い心(天使)」と「悪い心(悪魔)」とが葛藤するみたいな、バカバカしいほどの紋切り型なのだが、その紋切り型が、非情に高度なアニメーションの技術(「絵」の点においても「動き」の点においても、ロボットや怪物の「デザイン」という点においても、きわめて高度だと思う)によってバカ丁寧に形象化されると、まったく別の感触をもつものとなる。それだけでなく、この作品には性的な「比喩」が溢れるほどに盛り込まれていて、しかもそれは「比喩」とさえ言えないようなあからさまで陳腐なもの(例えばバットやギターがペニスを意味していたり、カレーが排泄物=スカトロを意味していたり、といったもの)なのだけど、それがあまりに紋切り型で、あまりに多量に盛り込まれているため、それは比喩として全く機能していなくて、画面を埋め尽くす不透明で過剰な「物」のような感触を生む。物語としても、閉ざされた地方都市の子供たちの、鬱屈した感情と成長を描くような話と、宇宙レベルで展開されている、宇宙全体を平板化しようとするメディカル・メカニカという巨大組織(この工場がまた分かりやすく「アイロン」の形をしている)と、それに抵抗する海賊王との闘いみたいなSF的な設定(この話自体がまた、巨大な多国籍企業と、そのグローバル化に対する抵抗という、分かりやすい「意味」をもつ)とが交錯しているのだけど、この交錯が物語に奥行きを与えているかと言えばそんなことはなく、このような設定はただ、様々な「アニメ」的なガジェットを作中に投入するための方便のようなものでしかなく、だからこの作品に散りばめられた「意味ありげな細部」も、(例えば『エヴァ』のようには)深読みを誘うような仄めかし、としては機能していない(つまり「作品」の外への広がりがない。)。この作品では、メタレベルも成立せず、作品の外との通路も塞がれていて、奥行きも広がりも欠いた世界で、不透明な「物」と化したジャンル的なガジェットが、高度に洗練されつつ、高密度に圧縮されている。そしてそのように「閉ざされている」ことによって、独自のリアルな感触が実現しているのだと思う。
●とは言っても、この作品の良さは、基本的には、ロボットや怪物のデザインや動きの面白さ、そしてそれが子供たちの頭に出来た突起物から破裂するように出てくること、つまりそれが、子供たちの鬱屈した感情と(それを「表現」している、と言うよりも)接続されていること、によって支えられていると思われる。つまりこの作品のリアリティーは子供たちの「成長物語」としてのリアリティーなのだが、しかしこの作品の面白さは、子供たちの頭から生み出された怪物たちの動きや力が、成長物語ということろに決してきれいには収斂していかないところにある。(だから、この作品の良さのひとつに『エヴァ』的な「内面描写」の方へと落ち込まない、ということがある。内面に入り込んでドロドロになることなく、感情は常に「外にあるものと結びつく(共振する)」という形で、外にある具体的な形象や動きとしてあらわれて、別の方向へと暴走してゆく。この「暴走(する力)」の展開こそがこの作品の面白さの中心だとも言えて、そしてこの暴走に多方向への広がりや展開を与え、その説得力支えているのが、ジャンル的な記憶や技術なのだと思う。第4話で、ちょっと『エヴァ』的な方へ行きかけちゃってはいるけど。)第3話で、主人公ナオ太の頭に生えた「猫耳」が、同級生の女の子ニナモリに移り、女の子から何ともグロテスクな怪物が出てくるところ(その怪物の形象や動き)とか、最終話で、女子高生ナミミが(これは頭から出てくるのではなく)河原でみつけたロボットが、とんでもなく成長してしまう感じとか、あと何話か忘れたけど、ナオ太がハル子に誘惑されて性的に興奮した時、ふいに頭の後ろから突起物が生えてくる描写とか、そういう部分がすごくリアルで、かつ、こういう感じを他であまり観たことがない。