佐倉の川村記念美術館で、ゲルハルト・リヒター展

●佐倉の川村記念美術館で、ゲルハルト・リヒター展。この展覧会は、是非観たくて、いそいそと出掛けた、というよりも、美術に関わっているなら、最低限これくらいは観ておかなくてはいけないだろう、という、つまらない義務感から観に行ったものだ。ウチから佐倉までにかかる時間で、新幹線なら東京から京都か大阪まで行ってしまうというくらいに時間がかかるのだが、それだけ時間をかけて観に行って分かった事は、リヒターの絵は、「実物」を観る必要が全くない絵である、ということだった。こんなに、印刷図版と実物との間に差が無い絵を描く人はほかにいない。下手に、数点の実物を観るくらいなら、画集でザクッと纏めて沢山観た方が、リヒターのやっていることを的確に理解できるだろう。
●リヒターの絵よりも、千葉駅から乗り換える成田線の電車の窓から見える風景や、佐倉駅から出る、美術館までの送迎バスから見える風景の方がずっと面白かった。(だから、決して行って損したという気にはならない。)平坦な田んぼが広がり、刈り取られた稲の根元の黄土色が視界を埋め尽くすなか、農道に停めてあるエメラルドグリーンのトラックがやけに目につく。(あと、同じようなエメラルド・グリーンっぽい掘建て小屋があって、それが凄く目立っていた。)ところどころで焚き火をしていて(やたらと焚き火が目についたのは、最近では、ぼくの家の近所ではほとんど焚き火を見ることがないせいかも知れない)、その白い煙が高い建物の全くない広がりのなかで、空へ向けてゆったりと昇っていた。どこまでも田んぼが広がる光景で、視界を遮るのは、ところどころ林のように纏まって林のように生えている木々くらいのものだ。電車のなかから、ぼーっと景色を眺めていて、視界を遮る木々を見て、ぼくは堀由樹子さんの描く木の絵を思い出した。それはたんに堀さんがこの辺りに住んでいるはずだということからくる連想なのかも知れないのだが、風景全体の色合いや、生えている木の生え方や形態や佇まいなどが、すごく「堀さんの絵」っぽい感じがしたのだった。