●まだ最後までは観てないけど『ゼーガペイン』というアニメがちょっと面白い。2006年の作品らしい。最初は、ロボットアニメの紋切型を全部あつめたみたいな設定に見えるのだけど、話がすすむうちに少しずつズレていって、世界像がだんだんおかしくなってくる。物語というより、世界の隠された面が次第に明らかになり、世界像がだんだん複雑になって行く過程が、作品の進行となっている感じ。だから、どこがどう面白いか言おうとすると、それがそのままネタバレになってしまう。
どんな感じなのか、最初のほうだけちょっとネタバレする。学園があって、熱くてまっすぐな性格の主人公がいる。幼なじみの女の子やケンカ友達がいる。そこに謎の美女があらわれるが、彼女は主人公にしか見えていない。これが第一の紋切型。主人公は美女に導かれ別の世界へゆく。実は、平和な学園生活が行われているのは虚構の世界で、リアルな世界では地球は荒廃し、人類を滅ぼそうとする敵との凄惨な戦争がつづいていた。主人公は覚醒したのだ。ロボットアニメの定番である学園生活と戦争という二重化された世界に『マトリックス』がプラスされた第二の紋切型。ここで第一の一ひねり。実は人類は既に滅亡していて、人間だと思っているのは量子コンピューターのサーバに保存された人間のデータであった。人はそもそも虚であり、ここで虚/実という土台そのものがひっくりかえされる。とはいえ、戦争は現実である。データでしかない人間は直接物質に関わることは出来ないが、ロボットに憑依(データ転送)し、ロボットを媒介として、現実や物質と関わりをもち、敵と戦う。人類は滅亡してデータ(幽霊)となった後にも戦争をつづけていることになる。ここまででは「敵」が何なのかは明かされていないが、後に「敵」の像にも一ひねりが加わる。データ(虚)としての人類が、ロボットを媒介とすることで、物質(リアル)である敵と戦うという、ロジカルタイプの混乱のような事態になる(データを物質的に支えているサーバのメンテナンスも、データである人がロボットを通じて行う)。いったんひっくり返された虚/実が、別の位相であらわれる。
さらに一ひねり。人間はデータでしかないが、そのデータはコピーできない。つまりバックアップがとれない(後にコピーとクローンの違いも問題となる)。サーバ内にいる限りは安全だが、データがロボットへと転送される時(ロボットからサーバへ戻される時)、わずかなエラーが生じる。しかしバックアップがないのでそのエラーは補正されない。転送されるたびに、オリジナルデータ(「精神」と言い換えてもいいかもしれない)が少しずつ破損し、データは少しずつ崩壊してゆく。しかも「何」が破損した(失われた)のかは原理的に分からない。さらに、戦闘中にデータが損傷すれば、データは消滅し、つまり死ぬ。データ人間にとって、ロボットに乗る行為には大きなリスクがある。しかし闘わなければ、敵にサーバを破壊され、データ=人類は根本から完全に消えてしまう。少しややこしくなってきた。
このような感じで進んでゆく。紋切型に見えた世界像が、足元をひっくり返すようなひねりが繰り返されることで、どんどん複雑で入り組んだ構造になってゆく。『ゼーガペイン』を構成する一個一個の細部や要素は、本当にどれも「どこかでみたような」ものばかりなのだが、ひねりや転倒が繰り返されることで、個々の要素が配置されるべきパースペクティブが妙なものになってゆく。