●野粼まど『know』を読んだ。一章を読んだところで「おお、すげえ」と興奮して勢いでアマゾンで同じ作者の本を何冊も注文して、それから二章以降を読んだら「あ、そこまででもなかったのかも…」となったのだけど、それでも、相当興奮したし面白いことに違いはない。他の本もぜひ読んでみたい。
ただ、一章と、結末の四章、五章はいいとして、二章、三章の展開が、割とありきたりなのではないかと思ってしまった。だけど、こういう風に「美少女キャラを生かす」みたいな段取りはきちんと踏まないといけないものなのかもしれない、とも思う。そのために一章で期待されたハードな部分の展開がちょっと緩んでしまった感じはあるけど。
最初はハードなSFとしてはじまって、最後にはホラーになるという展開で(神の方に行くのか死の方に行くのかと思っていたら、死の方に行った)、そのつながりの必然性は納得できるのだけど、その中間の移行部分が一章を読んで期待していたほどすごいというところまではいかなかったという感じ(そこでお寺---曼荼羅---とか御所---神話---とか出してくるのはイメージとしてちょっとありきたりではないか、とか、中盤は、「どんな強い奴がいても、それよりさらに強い奴がいる」というバトルのインフレみたいな展開になりかけていないだろうか、とか)。つながりの必然性は理解できる(「情報」から「ブラックホール」に行くのは必然なのだろうと思う)とは言っても、その「つながり」の部分をもっとがっつりと理詰めで(あるいは、もっと驚くような展開で)やって欲しかったと、思ってしまった(そこまで大きな期待を持ってしまうくらい一章が面白かったということなのだが)。二章以降の主役と言える美少女キャラが、彼女を導き出した「先生」程には魅力的には感じられなかったということもある。女の子の「中から」先生が現れる場面は本当に素晴らしかったけど(ぼくの「好み」としては、もっとこっちの方向に話が行ってくれればなあ…と思うのだけど)。
あと、一章で提出された問題が、十分展開されないままで尻つぼみになってしまった感もある(情報に関する話が、後半は特定の「脳」の話に集約されてしまって、前半にあった、情報技術によって脳と社会とがパラレルな関係になるという話が立ち消えになってしまって、そうなると例えば、何故、社会のなかで情報に格差があることに「意味」があるのか、という部分とかは、その後の物語で生かされなくなってしまうように思った)。もっと面白く---あくまでぼくの主観としての面白さということだけど---できるような素材や道具立てが揃っていて、もう一押し二押しすればかなりすごいことになると思うのに、けっこう「それなり」なところで納めちゃって勿体ないなあという感じがある(ある意味、とても「手際がいい」のだが、その手際のよさがところどころで安易さにみえてしまう)。この小説の可能性は一章に凝縮されていて、二章以降の展開はその多数の可能性(多数あり得る解)のうちの一つで、でもそれはかならずしも最適な解ではないかもしれない、という感じがした。でも、それが十分に展開され切っていないからこそ、刺激されて、こっちでいろいろ考える余白があるとも言える。あとは、読んで刺激されたこっちが勝手にいろいろ考えればいい。そういう意味でも、とても面白い。なんか文句ばかりを書いているようになってしまったけど、とにかくいろいろ刺激されたことには違いない。
(エピローグは、あった方がいいのか、ない方がいいのか、微妙だと思った。確かに、最後の衝撃の一行の効果は大きいから、これは外せないのかもしれないけど、エピローグはラスト一行のためだけにとってつけたようにある感じになってしまっているので、あの一行はもっと別のやり方で---もっと面白い場面から---もっとうまく導けるのではないか、と。あと、ファーストシーンはあまり良くないのではないかと思った。何故この場面から始まるのかよく分からなかった。何かの伏線なのかとも思ったけど、そうでもないようだし。)
●この作品はアニメ化もありなのではないかと思う(というか、それを狙っているんじゃないかという節もある)。アニメ化するとしたら、つくる人たちは相当にやりがいがあるのではないか。素材として面白く、展開する余地がいろいろある。ただ問題なのは、最初の三分の一くらいはヒロインが出てこないことで、これはアニメとしては致命的かもしれない(サブヒロインみたいな人は出てくる)。
●昨日書いたことの実例を下に二点。あまり良い写真ではないので上手く伝わらないかもしれないけど。一枚目はクレパス、二枚目は色鉛筆で、だいたい80センチ×1メートルくらいの画用紙に描いた。