●地元の駅ビルの三階に、広いウッドデッキみたいになっている屋外のスペースがあって、駅のホームと駅ビルの壁と隣の立体駐車場が見えるだけで特に景色が良いわけでもないのだけど、喧騒から切り離されて閉ざされている感じと、それなのに風の通りが良い(それにいつもあまり人がいない)のが気に入っていて、駅まで出かけた時には近くのコンビニでビールを買ってそこのベンチに座って飲んだりしている。今日も、図書館に行った帰りに駅前まで行って、コンビニでビールを買って、デッキへつながる外階段を昇っていったのだが、上から大きな歓声が聞こえてきていた。
大して広くないデッキに、大勢の人が集まって何かを取り囲むようにしていた。ただの平坦なデッキでステージのようなものもないので人々の背中でまったく見えないのだけど、曲が流れ、その人だかりの向こうで誰かが歌っている。しばらくすると曲が終わり、歌っていた女の子たちが自己紹介をしている声が聞こえてきた。その歌声から、歌っているのは一人ではないとは分かっていたが、せいぜい三、四人くらいだろうと思っていたのだが、自己紹介は予想より長くつづき、六、七人くらいのグループみたいだった。アイドルのイベントって、ステージもないような、こんな休憩所の隅みたいなところでするものなのか、とちょっと驚いた。
人だかりのほとんどの人は、たまたま居合わせたのではなく、このグループのイベントが今日ここであることを知っていてそれを目的に来たファンのようで、アイドルが歌い出すと、曲に合わせて、踊るというか、オタ芸のフリみたいなのをはじめる。それ以外の人(つまりたまたまそこに居合わせた感じの人)は、人だかりの最後尾からやや距離を置いたその後ろで、アイドルは見えないのでなんとなくその「騒ぎ」全体を眺めてる感じで、ぼくもそんな感じの位置で、ビールを飲みながら人だかりの後ろ姿を見て、流れてくる曲を聞いていた。ちょっと前方にいた中年の女性が、待ち合わせの相手が来て去っていったので、その位置まで進んでみると、人と人との隙間から、白い衣装がチラチラと動くのが見えるくらいにはなった。
そういえば、アイドルとそのファンが一緒にいるところに、生まれてはじめて居合わせたのではないかと気づいた。アイドルに興味がないので、アイドル好きの人の感情や、また、アイドルになりたいと思う人の感情もよく分からない(自分のものとしてシミュレーションできない)のだけど、自己紹介によると、14歳から18歳までの六、七人くらいのアイドルグループが、人だかりの背中の向こうに居て、歌ったり踊ったりしていて、その歌に合わせて踊ったり、歓声を挙げたりしている人だかりがあって、それが一つの空気のようなものを確かにつくっていて、ああ、なんか楽しそうだなあと、この感じはいい感じだなあとは思えた。
まあ、夏で、夕方で、気持ちのよい風の通る屋外で、なにかをやっていれば、それは大抵いい感じのものにはなるのだろうけど。ビールも飲んでいるし。