2021-12-02

●「ライオンは寝ている」(早稲田文学2021秋号)についてネタバレ的なことを一つ書く。この小説で兄に向かって語りかけている語り手の《わたし》が、男性であるのか女性であるのかを決定できる(あるいは推測できる)ことは、何も書いていないはず。ただ、必ずしも、語り手が男性であるか女性であるのかが決定不能な宙づり状態の語りの持続を書きたかったというわけでもない。書いているぼくの主観としては女性の語り手をイメージして書いていた割合が大きい(7割女性、3割男性くらいか、追記、女性の語り手といして語られている部分が全体の中で7割くらいある、ということではなく、女性7割、男性3割くらいの感じの主体を想定した、ということ)。だが同時に、タイトルの横にある作者名が男性である場合、多くの人は語り手を男性と想定して読むだろうとも思っていた。

読む人ごとにその都度、あるいはできることならば読む度ごとにその都度、さらにできることならば一行ごとにその都度、男性の語りとしてたちあがったり、女性の語りとして立ち上がったり、男性でも女性でもないものの語りとして立ち上がったりすることが可能であるような、言葉による構築物をつくりたかった。