●小学生の頃、近所に、雑草が生え放題の荒れた空き地と、その隅に建つ廃屋となった二階建ての木造アパートがあった。周囲には有刺鉄線が張られていた。小学生にとってそこは想像力がかきたてられる神秘のスポットだった(そのようなスポットは他にもいくつかあった)のだが、いつの間にか更地になり、そこには何の変哲もない住宅が二棟建てられた。それさえもうずいぶん前のことだ。そして今日、その前を通りかかったら、その一方の家で解体作業が行われていた。あれからもう、一軒の家の寿命分の時間が経ち、自分は一軒の家の寿命よりも長く生きているのか、と思った。