●とても寒い。買い物からの帰り道で歩いていたら、熱いよう、じりじりくるよう、焼き豚にされちゃうみたいだよう、熱すぎて震えちゃうよう、と叫びながら、夜道を自転車で走ってくる中学生くらいの女の子の二人組とすれ違った。
(すれ違ったのは、昔、市内に大きい工場のある企業の社宅があったところの脇の道だ。社宅は平屋で、長屋のように、あるいは列車のように細長く、その細長い建物が車両場の列車みたいに、広い敷地にいくつも並んで建っていた。社宅の脇の道は小学校への通学路で、社宅には確か同級生の中原くんが住んでいた。中原くんはぼくのことをフルボックリとかプルルくんとか呼んでいた。社宅の敷地は、その脇の道より五十センチくらい高くなっていて、金網で囲まれ、学校からの帰り道、ぼくは歩きながらなんとなくその金網に手で触れる。道を家に向かってまっすぐ行くと、社宅が途切れたところで、右手がスーパー、左手が魚屋になった。魚屋の前には表面がツルツルした、高さ三メートルくらいだろうと思われる木があって、母親の買い物について来たけど必ず飽きてしまうぼくは、その木に登ったり――高いところまで枝がないので登り棒のようにして登った――まわりをぐるぐる回ったりした。スーパーの小さな駐車場に土曜になるとたい焼き屋の屋台が出たのはそれよりもっと後の五年生の頃で、「およげたい焼きくん」が流行っていた。社宅の敷地は、今では広大な駐車場と要塞のようなマンションが建っていて、マンションはこの辺りでは例外的に高い建物だ。)